プロローグ
突然だが俺には前世の記憶がある、今は転生してから十五年がたち季節は春、俺は高校一年生となり家で寛ぎながらテレビを見ていた。
俺が転生した世界は男女の性欲が逆転している、また男女比も偏って現在は1:5となっており男性の数が少ない。
ちなみに、今見ている番組は女性アイドルのオーディションの生放送番組だ。
オーディションで選ばれた子は番組で全面的にバックアップしていくみたいな番組だ。
さらに有名どころの作詞家や作曲家に曲も作って貰えてCDデビューも出来るらしい。現在テレビには8人程の少女たちが映っている。
この女性の方が多い世界で女性のアイドルなんて需要がないのではないのではないかと思われがちだが実は結構需要があったりする。一種の女性の憧れの職業の一つなのだ。
まぁ、その話はいいとしてこれから彼女達は簡単な自己紹介の後に歌を歌うのだが歌はともかく曲が……酷い言い方になってしまうがレベルが物凄く低い。
なぜ、そんな曲を歌っているのかと言うとこの世界だとそれが人気の曲だからだ。
前世の曲を知っている俺からすると、この世界の曲は古いというかなんというか、この世界では最新なんだけど歌詞もメロディも何もかもがダサい。
俺のセンスがこの世界とズレている可能性もあるんだけれども……。
「曲がダサすぎるんだよなぁ……声は綺麗で歌もうまい子がいるのに勿体ない」
テレビを見ながらひとり語ちる。
番組を見ていてもつまらないが仕方なくボケーと観ていたらいつの間にか最後の女の子になっていた。
ツーサイドアップの髪型をしたすごく可愛らしい少女だ。
「音無プロダクション所属、有沢雪乃です。一生懸命歌って誰かを笑顔に出来たらいいと思います!」
そして曲が始まるが、これがまたなんともいえないテンポで俺にとっては音楽としてはとても受け入れられないレベルにダサい曲だった。そして歌いだす少女。
その歌い出しの瞬間俺はドッキっとする。すごい綺麗な声だ……。
そかし、それは一瞬の出来事。
やはり少女の声、歌い方、全てが曲とあっていない。
そして、歌い終わりそれを番組レギュラーと思われる人達が評価していく。五人の審査員のうち、それなりの評価を出す人もいるが大半の反応は悪い。
『うーん、キミの歌を聞いて笑顔になってくれる人は結構いると思うよ』
一番、低い評価を出してる審査員が少女に言った。それなのに、それを聞いた少女は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「うん、だってすっごい下手でおかしいもん。キミ、歌のセンス無さすぎでしょ」
「「「あはははは」」」
その審査員の言葉に爆笑に包まれる会場。
少女が表情が目に見えて暗くなる。
俺はその様子を煎餅を食べながら呟く。
「彼女が下手なんじゃない、曲があってないんだよ。俺の曲なら……彼女はトップアイドルにだって――」
なれるかもしれない。その言葉を飲み込む。
彼女が今歌った曲は彼女の可愛らしく美しい声に合ってないのだ。もっと荒々しくパワフルなハスキーボイスなら合ってただろう。俺は彼女に合う曲を何曲も知っている、それこそこの世界の音楽とはレベルの違う本物の音楽を……。そこで俺は自分の今考えた事に気づき、余りのありえなさに頭を横に振った。
もし、俺が彼女の曲の作曲を担当するなら……なんてあり得ない事だ。