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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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79.初代皇帝の重大な秘密

 結界に気づいたのは、リリンだけ。彼女は何もなかったフリで指摘しなかった。


 結界が消えたことで、リンカの上げた大きな声が店内に響き渡る。他の客がいない今、それを聞いたのは店主であった。


 湯気の上がる温かい料理を手に現れ、にっこりとリンカに笑いかける。グラタンに似たソースとパスタを焼いた料理に、挽肉を使った炒め物。香辛料が鮮やかな赤い鍋は、ぐらぐらと煮えていた。魚介類のいい香りがする。


 最後に大量のパンを積み重ねた。白い小麦のパン、黒い大麦パンと雑多に並ぶ。よく見れば揚げパンも混じっていた。種類豊富なパンは、中に干した果物やナッツが入っている物まである。


「全部私の奢りよ、食べていって。こんなに嬉しいお客さんは久しぶりだわ」


 閉店の札をかけた店主は、リンカとリリンの間に座った。一緒に食事をしながら、雑談に興じる。どの店のリボンが安くて可愛いか。ドレスを頼むなら優秀なオカマがいる、など。裏情報が披露された。


「私はあちこちで排除されるから、こうやって裏で店を開いたのさ。不便だけど、いいお客に恵まれてるよ」


 メレディスと名乗った店主は、現在オネエ様として生活しているらしい。親には勘当されたというから、意外といい家の出身なのか。シェンは推測を交えた観察を続けながら、赤いスープを飲む。辛いかと思ったが、酸味もあって美味しい。ただ、エリュには少し辛いかな。皿を少しエリュから遠ざけた。


「男に戻ろうと思わなかったのか? そうすりゃ差別されないんだろ」


 ナイジェルは不思議そうに尋ねた。その口の周りについた白いクリームを、メレディスはナプキンで拭う。


「そんなことしたら、私じゃない。嫌ったり離れていく人もいるけど、こうして一緒に食事をしてくれる人もいるんだから。私は私だよ」


 きっぱり言い切った潔い姿に、エリュもリンカも目を輝かせた。ナイジェルは「そんなもんなのかな」と首を傾げる。シェンは友人達の反応を観察していた。性格が出ていて興味深い。


 隣に座るエリュは、パンに染み込ませたグラタンを頬張るのに夢中だった。頬にパンを詰め込み、グラタンの味に幸せそうだ。


 エリュはクリーム系の味が好き。熱くても火傷せずに食べている姿に、自分の前にあった別のホワイトソースも差し出した。


「いいの?」


「もちろん。エリュが好きなら嬉しいな」


 遠慮せず食べるよう、促す。黒いパンを手に取り、普段食べるより硬いパンをスープに浸した。この食べ方は庶民の間では一般的だが、貴族では嫌われる。というのも、平民が手にするパンは硬い。そのままでは喉に詰まるので、スープを染み込ませるのが通例だった。


 貴族は柔らかな白いパンを食するため、その必要がない。千切ったパンに味を染み込ませて食べるのは、品がないと考えられてきた。シェンが知る限り、そんなマナーはごく最近の贅沢が発祥なのだが。


「今日は何をしてきたの?」


 メレディスの質問に、口々に「芝居」だの「買い物」と答える子ども達。リリンが笑って、劇の題目を告げた。初代皇帝の英雄譚、建国の話。どちらも実際に見てきたシェンへ、メレディスが話を向けた。


「あの話に出てこない裏話が知りたいな」


「そうだなぁ……アンドレアが男装の麗人だったのは知ってる?」


 爆弾発言と思わぬ秘密の暴露に、全員が顔を見合わせた。

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