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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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60.黒幕ではなく、トカゲの尻尾

「こ、皇帝陛下に逆らう意思など、毛頭ございませんでした! ましてや、危害を加えるなど……恐ろしい!! どうぞお調べください」


 大柄な男は深く頭を下げる。謁見の広間に用意された壇上の玉座は二つ、その片方に座ったシェンは「ふーん」と気のない返事をした。


 這いつくばって泣く男は、額を絨毯に擦り付けた。見た目は人に似ているが、その肌は鱗に似た硬い皮がびっしり覆っている。ドラゴン種の一つだが、空を飛ぶ能力は持ち合わせない。山肌にある洞窟を好んで住処とする魔族だった。


「何が目的だったの」


 皇帝であるエリュを狙って動いたわけではない。その部分は本当だろう。あの場で、エリュが果物に興味を示したのは偶然だし、寄る店のリストもなかった。後をつけて行動を起こすにしてはお粗末だったし、何か理由があったはず。


 衛兵を買収して得られる利得は少ない。これが騎士の買収なら、叛逆を疑われる騒動になった。だがただの衛兵、それも下っ端に金を渡したところで、出来ることなど高が知れている。


「我が一族は穴の中で、ひっそりと暮らしております。ゆえに明るい世界への憧れが強く……その」


「陽の下で暮らせるようにしてやると、誰かに唆された?」


「は、はい!」


 黒幕がいると聞いたが、この土竜族の長老の後ろにさらに誰かがいると気づいた。おそらく土竜族は囮だろう。トカゲの尻尾切りの尻尾に選ばれてしまった。他種族との交流が乏しい彼らなら、切り捨てる際に容易だと考えた。ならば、黒幕本人は周囲との繋がりが多い誰か……。


 または土竜族と、なんらかの確執か因縁を持つ種族の可能性もあった。その辺はベリアルに調べてもらおう。寝ていた期間が長すぎて、シェンの知る過去はあまり役に立たない。ふと、何かを思い出しかけたシェンは目を閉じる。


「しばらく、長老のそなたは文官であるベリアルの下につけ。地上で暮らしたいなら、その旨を陳情せよ。大人しくしておれ」


 釘を刺して、シェンは玉座を滑り降りる。足が着くにはちょっと高さがあった。お昼寝しているエリュが起きてしまうので、足早に青宮殿へ向かう。エリュが起きた時、そばにいてやりたいのだ。部屋の扉をケイトに開けてもらい、中に入る。まだ丸まったエリュの隣に滑り込んだ。


 膝を抱えるように丸くなって眠るエリュの腕を解き、正面から抱きつく。小さな手が、迷いながら背中に回った。子どもなのに遠慮するエリュが愛おしくて、切なくて。シェンは強く抱き寄せて目を閉じた。


 じわじわと同化する体温が馴染んだ頃、ようやくエリュが目を覚ます。一度大きな欠伸をしてから、目の前の友人を見て頬を緩めた。抱きついたシェンの肩を揺らす。


「シェン、起きて。おやつの時間」


「うん、ありがと」


 いつもの当たり前の幸せを繰り返し、エリュはほわりと笑った。タイミングを見計らって、ケイトや他の侍女も動き出す。一人で起きられたことを褒められながら、エリュは着替えに挑戦した。ボタンを間違えずに留められるまで、まだ練習が必要そうだ。さり気なくボタンを直し、愛らしい二人の幼子を促すケイトは満面の笑みだった。

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