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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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58.祭りの終わりは寂しさを連れて

 毎年行われる建国祭は、7日間のお祭りだ。それを長いと思うか、短く感じるか。すべては楽しめた度合いによって変わる。エリュは不満そうに頬を膨らませた。リンカとナイジェルは、祭りの終わりと共に帰国してしまう。期限は明日の朝だった。


「まだ遊べるのに」


 もっとたくさん、この宮殿に滞在してくれたらいいのに。お部屋も余ってるし、一緒がいい。唇を尖らせて抗議する頬を、シェンが指でぷすっと押す。


「エリュ、ほら。可愛い顔をしなくちゃ。来年までに留学の準備をしてくれるんだよ。笑顔で送り出して、笑顔でお迎えしよう」


 シェンに諭され、ようやく小さく頷く。聞き分けがいい姿に、リンカは複雑な思いを噛み締めた。彼女は長女で、弟妹がいる。だからこそ、エリュの姿に同情の色を浮かべた。


 我が侭が許される子と、許されなかった子。その違いを誰より知っている。譲るべき時は、いつまでも駄々を捏ねていられない。まだ幼いのに、皇帝の立場でいろいろと諦め手放すことを知るエリュを、愛おしく可愛く思えた。


 同時に、もっと我が侭を言わせてやりたい。叶わなくてもいいから、我が侭を口に出させてやれたら。欲しいのに弟妹に譲って来た。長女のリンカが望んだ我が侭を口にする自由を、エリュに与えたいのだ。


 するりと膝をついて、小さなエリュを抱き締めた。見た目通りに幼い彼女は、おずおずと背に手を回す。こんなに震えて嫌だと思っていても、泣けないエリュの気持ちが分かる。リンカは複雑な気持ちを飲み込んで、笑顔を作った。それから目を合わせる。


「エリュ、私はあなたの騎士になり友人となり、姉になるため帰ってくる。少しだけ待っていてくれるか? 1年も待たせたりしない」


 両親に訴え、実力をつけて戻るよ。人生で初めて、我が侭を行使したいと思っている。そう付け足して、リンカは笑った。泣きそうな笑顔ではなく、心の底から微笑んでエリュの額にキスをする。


「うん、我慢……する」


「そうじゃないぞ。我慢ではなく、期待して待っててくれ」


「……いいの? 待つよ、ずっと待ってる」


 ずっとは待たせないさ。笑うリンカの耳がふわりと広がる。緑の髪に隠れていた耳から、小さな輪をひとつ外した。ピアスとして身につけたそれを、エリュの指に通す。


「約束だ。これがキツくなる前にまた会おう」


 盛大に別れを惜しむエリュを見ながら、シェンは肩を竦めた。この経験はエリュの心を成長させるだろう。リンカが戻ってきても、来なくても。


「お前はいいのか?」


「……お別れは言うけど、ちょっと……交じりにくい」


 綺麗な絵画に似た状態はもちろんだが、異性であることを意識し始めた証拠だ。抱き締めることに抵抗があるようだった。これまた愛らしいことだ。シェンは外見に似合わぬ顔で笑い、そっとナイジェルの背を押した。


「いま抱き合っておかないと後悔するぞ」


「あ、うん」


 年齢が上がれば上がるほど、エリュに抱きつく機会は減るのだから。今なら無邪気さと子どもの年齢を言い訳に許される。来年に同じことをしたら、ベリアル辺りに嫌味を言われるであろうし。シェンは優しくナイジェルの背を叩き、急ぐよう促した。緊張した面持ちのナイジェルが近づくと、リンカが一緒に抱き込んでしまう。


「ふむ、いい構図だ」


 年齢やバランスも悪くない。絵画にするなら、甘酸っぱい関係を表すタイトルが似合うか。


「シェンも来いよ」


 照れたナイジェルに手を引かれ、気付いたらシェンも輪の中に取り込まれていた。うん、悪くない。いや……とてもいい。ようやく泣けたエリュの涙に頬を押し当て、シェンは心地よさを感じていた。

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