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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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56/128

56.文字通り締め付けてやりました

 突き上げた拳を解き、何かを握り込む所作をする。その動きに合わせ、シェンの後ろに現れた蛇が実体化し始めた。透けていた姿が不透明になっていく。鱗が地面を擦る音が、ずるりと響いた。


 巨体がうねるたび、周囲が声を上げる。ほとんどは応援の声や感嘆だった。鋭い牙を剥いて威嚇しても、蛇の瞬きしない目が捉えるのは衛兵達だ。攻撃対象から目を離さない巨蛇は、シャーと甲高い音を放つ。直後、衛兵の一人が走り出した。


 逃げる気のようだが、逃すほど優しくはない。シェンの指がわずかに揺れた仕草で、蛇の尻尾がびたんと地面を叩いた。足を叩かれた衛兵が転がる。残る二人も、顔色を変えて逃げ出した背中を叩かれた。


 残る衛兵は一人だが、彼は逃げずに立ち向かうと決めたようだ。決意は立派だが……いろいろ間違っている。


「くそっ、舐めやがって」


「それは我の言葉じゃ。立ち向かう勇気は大したものだが、相手が違っておる。民を傷付けるならず者と同じ振る舞いをするなら、神罰が下るのも当然であろう?」


 くすくす笑うシェンは、どこまでも幼女の姿だ。しかし彼女の貫禄と威厳は、長く生きた者特有の余裕があった。衛兵は怯えながらも槍の穂先をシェンへ向ける。威嚇する蛇ではなく、操る幼女を標的にした。戦いの順序として間違っていないが、当然周囲は非難の声を上げた。


「子どもに攻撃する気か?」


「最低なやつだ」


「おい、衛兵の詰め所に誰か走ってくれ」


「援護はいるか?」


 体の大きな男が現れ加勢しようとするが、周囲に止められた。こそこそと正体を告げられ、苦笑いして手を振る。振り返したシェンは、脇を通過した穂先に目を細めた。続いて繰り出された攻撃は、すべて蛇が防いでいく。硬い鱗は、キンと甲高い音を立てた。


 弾かれた穂先を、蛇が叩き折る。


「来るなっ、やめろ」


 叫ぶ男を蛇がぐるりと囲んだ。くるりとトグロを巻きながら、武器を失った男を締め上げる。


「やっつけたの?」


「もちろん! リリンに渡すから砕いてないけどね」


 本当は処分したいが、ここは蛇神が暮らす地下の穴蔵ではない。エリュという皇帝が支配する地上だった。法があるのだから、無視するわけにいかない。シェンはそう説明して笑った。


 蛇は今もぎちぎちと音をさせながら、衛兵を締め上げている。死なないとはいえ、かなり苦しいだろう。呻き声が漏れてきた。


「あの人、平気?」


 心配するエリュの純粋さに、可愛いと頬を緩めながらシェンは頷く。


「うん。生きてるよ、もう二度と悪さは出来ないと思うけどね」


 手足は不要、呼吸する胸と自白する頭が残っていればいい。そんな意味を丸く伝えて、シェンは結界で守るエリュ達の元へ向かった。後ろで拍手と万歳の声が上がり、照れたエリュが顔を赤くする。それがまた愛らしいと声が増えて、喝采は止まなかった。


 エリュと手を繋ぐシェンが、店主のおばさんの前に歩いていく。後ろをナイジェルとリンカが追いかけた。さっと道を開けた人達に手を振って応え、大量の果物の前で立ち止まる。新鮮で色艶の良い果物ばかりで、美味しそうな甘い香りで幼子を誘う。


「助けてくれてありがとうよ、どれを持っていく?」


「買い物を体験させて欲しいな」


 銀髪を揺らして「ほわぁ」と喜びの声を上げるエリュを視線で示してウィンクする。店主は豪快に笑って、大きく頷いた。

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