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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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55.シェン、やっちゃえ!

 威圧しながら前に進む幼女に怯え、男が一歩下がる。先程の風に抵抗したのが嘘のようだった。笑みを浮かべてシェンはまた一歩、距離を詰めようとする。その背後に何を見たのか。


「うわっ、来るな! 化け物っ!!」


 叫んだ男が踵を返し、泣き喚く仲間を見捨て逃げようとする。その足を小さな魔法が掬った。すってんと一回転して背中から着地した大男は、何かに襲われたように両手を振り回して「許してくれ」と騒ぐ。幻覚でも見ているのだろう。シェンは小さな影を放って、男の手足を拘束した。解こうと足掻くほど、蛇の綱は締まる仕組みだ。


 見守る観衆は驚き、続いてわっと歓声を上げた。その中に、シェンの姿を覚えている者がいたのだろう。蛇神様万歳と叫ぶ声が混じった。ざわめきが広がり、お披露目で見た皇帝とその隣に立つ守護者シェンを思い出した者が、口々に讃える言葉を口にする。


「お忍びだから、ね。しぃ」


 立てた指を唇に当てて笑うシェンが、黒髪のツインテールを揺らして笑う。その愛らしい仕草に微笑んだ人々が、互いに「しぃ」と声を殺し始めた。


 ようやく解放された店主のおばさんが立ち上がり、彼女に気づいた数人が手を貸す。向こう側を覗き込んだ羽のある魔族が「うわっ」と叫んだ。


「ああ、手を出さなければ攻撃しないよ」


 シェンはからりと笑った。露店の裏側、店主が捕まっていた場所に転がるのは、ゴロツキの片割れだ。こちらは巨大な蛇と化した影に巻かれ、簀巻き状態だった。近づく者を威嚇する影は、シェンが放った影の小蛇だ。


「衛兵が来たぞ」


「遅い!」


 人々が文句を言いながら道を開く。黒い蛇に襲われた男達を見て、目を見開いた。


「この蛇を操ったのは誰だ!」


 なるほど。本当に賄賂を受け取ったみたいだ。これはお仕置きが必要だよね。ちらっと後ろを窺い、無事なエリュ達に片目を瞑った。リンカがふふっと笑って頷き、エリュとナイジェルに耳打ちする。これで準備は万端だ。


「僕だよ」


 どう見ても幼女と表現される黒髪の子どもが胸を張っても、衛兵が信じるわけはない。ましてや今のシェンは魔力を消していた。こういう技術は年の功だ。経験を重ね、さまざまな努力の末に身につけるのだから。


「子どもに罪を着せる奴は誰だ!」


「ねえ、どうして助けに来なかったの? お店のおばさんが困ってたのに、悪い人を放って置くの?」


 子どもの口調で尋ね、こてりと首を傾げる。揺れる黒髪で、口元の笑みが隠れた。さあ、どう答える?


「悪いのは彼らじゃなくて、いきなり暴力を振るった蛇の持ち主だ」


「……もうよい。茶番が面倒になった。いかほどで買収されたか知らぬが、相応の対価は払ってもらうぞ」


 口調ががらりと変わる。シェンの背後に巨大な蛇の幻影が浮かんだ。ぐわっと開いた口の牙がぎらりと光り、威嚇音が響き渡る。


「シェン、やっちゃえ!」


 どちらが悪いか、誰に言われるでもなく気づいたエリュが叫ぶ。その声に応えるように、シェンは拳を突き上げた。

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