52.街で祭りを堪能しよう
他国の王族は迎賓館へ泊めたが、子ども達はまとめて青宮殿で過ごした。その話が広まったのか、翌日は多くの子を連れた貴族が集まる。建国祭は7日あり、その間にエリュと親しくなれば出世が望める……透けて見える欲の皮にシェンは溜め息を吐いた。
うん、これは想像してた以上に愚かだ。対応をベリアルに一任し、シェン自身は友人の安全に気を配ることになった。リリンは穏やかな笑みを浮かべて、のらりくらりと貴族の追求を交わしていく。この辺の手腕はエリュにも身に付けさせたい、とシェンは肩を竦めた。
アドラメレクとフルーレティは、いい側近を残してくれたものだ。
「あの子達はなに?」
「お祭りに参加するんだと思うよ。僕達も急がないとね」
一日目は皇帝が顔出しして祝賀会が行われる。二日目から五日目まで、街中で歌って踊るイベントが多く開かれた。そこへ参加する予定なのだ。もちろんシェンが護衛するから可能になったのだが……エリュは気づいていない。
「急がないと、イベントに間に合わなくなっちゃう」
急かされて、慌てたエリュが走り出す。一緒にシェンが走ると、後ろをナイジェルとリンカが追いかけた。彼らも参加予定なのだ。これから着飾って出かけるなら、時間ギリギリだった。
「ナイジェルはあっち」
リンカが指差した部屋で、侍従達が待ち構えている。
「おう! 後でな」
気やすい口調で駆け込むナイジェルを見送り、リンカは幼女二人に追いついた。侍女が手招きする部屋で、3人まとめて着替える。祭の衣装は、刺繍たっぷりのワンピースだ。これは初代皇帝が国を興した際、同行した民の姿を模していた。追われて逃げ惑った人々を受け入れた希望の証とされ、毎年刺繍の腕を競う場でもある。
海の中をイメージした青い刺繍がエリュに被せられる。森の木々と小鳥の刺繍をリンカが着た。それぞれに刺繍を撫でる。可愛いとお互いを褒める彼女らが振り向いた先で、シェンは袖を通したところだった。肩に蛇の頭を掲げ、背中から裾へ蛇が絡みつくデザインだ。
蛇神信仰が強い魔族にとって定番の祭の衣装だった。蛇神シェーシャ自身が着用するのは珍しい。
「どうだ?」
「うん……少し怖い」
エリュの正直な感想に、ぱちくりと目を瞬いたシェンは笑い出した。気を遣ったのか、リンカは似合うと言ってくれる。廊下に出ると、ナイジェルがぶつぶつ文句を言っていた。大人になると衣装の形が変わるが、子どものうちは全員ワンピースだ。それが気に入らないのだろう。
「足元がすーすーする」
「だが似合うぞ」
シェンが宥めるように告げ、ナイジェルは肩を落とした。女装みたいだと嘆くので、この国では大人と認められるまで全員同じと言い聞かせる。
「女装? 似合えば問題ない」
リンカはからりと笑い飛ばした。街へ出れば理解するはず。大人の男性は裾の長いチュニックにぴたりとしたパンツ。女性は無地のワンピースの上に足元まで届くベスト型の長い上着をを羽織る。チュニックや上着はすべて刺繍が施され、その見事さが他国で話題になるほどだった。観光客も多いし、祭の間に着用する刺繍の衣装をお土産に購入する客もいる程だ。
宮殿内にエリュ達が残ったように見せるため、幻覚を見せてその間に転移で街へ飛び出した。数人の騎士が護衛につき、途中でリリンも合流予定だ。
「さあ、街を探索しよう!」
観光客が増えるこの時期は、毛色や種族の違う人々が溢れる。目を輝かせる彼らは、互いにペアで手を繋ぐことにした。シェンとエリュ。リンカとナイジェルだ。競うように刺繍服で練り歩く住民達を見るだけでも、十分だった。
「あっちでお菓子売ってる」
「寄ってみる?」
お揃いの兎ポーチを付けた幼女達は、異国の友人を連れて祭を大いに楽しんだ。




