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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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47.あの阿呆と我のどちらが上か

 執政のトップであるベリアルから、幼くもエリュが皇帝であること。隣に立つシェンが蛇神の化身であるとも説明された。これでお膳立ては終わりだ。


 祝賀会へ向かう人の群れは、貴族が主流だった。貴族には通達していないが、有力な商人や他国からの賓客も混じっている。愚かな行動をする者への牽制もあるが、見せしめの意味が強かった。情報に明るければ、商人と面識のある貴族は察するはずだ。


 要は、愚か者と使える者を区別する篩だった。仕掛けは大きいが、仕組みは使い古された懐かしいものだ。作戦は複数考えたが、結局全員が同じ結論に至った。曰く、欲に眩んだ者は足下が見えていない――。


 会場となった広間は、綺麗に飾り付けられていた。青宮殿から離れた水晶宮と呼ばれる建物は、数百前に建てられ比較的新しい。この宮殿全体で言えば、青宮殿が一番古い。ゲヘナ国初代皇帝の頃から修復し、維持されてきた。


「入るよ」


「うん」


 エリュと手を繋ぎ、合図を見てとったシェンが広間に入る。皇帝のお出ましとあり、貴族は一様に正面を向いて頭を下げた。玉座に座らせ、用意された同格の椅子にシェンが並ぶ。隣同士と笑うエリュの姿に、微笑ましいと感じたのは8割ほどか。残りは顔を歪めたり、目を逸らした。


 蛇の目はさほど視力が良くない。だが発達した嗅覚と、空間察知能力があった。そこへ魔法で補えば、広間に集まった者の動きをほぼ把握できる。順番に挨拶にくる貴族に応じながら、シェンは数えながら待った。


 人間の貴族社会の爵位は、ゲヘナ国を模したものだ。だが一部が独特な進化を遂げていた。例えば、息子や娘は爵位なしとして扱われる。これは人間社会にはない。あくまでも爵位は当人の努力や才能に与えられるものであり、血を引く子孫が必ず跡目を継げるとは限らなかった。


 実力が重視されるゲヘナならでは、だ。その原理は皇族にも適用された。彼らは知らずに撒き餌に食いつくだろう。幼子の姿に、御し易いと感じるか。それとも無能と嘲るか。


「ガスター公爵家」


 名を呼ばれる順番は、家格ではない。当主の実力順だった。上位で呼ばれた公爵は息子や娘を伴い、優雅に一礼する。笑顔だが目は冷めていた。


「皇帝陛下にお初にお目にかかります。ガスター公爵にございます」


 すっとシェンが目を細めた。名を名乗らず、家名のみに留めた。その挨拶は上位の貴族が、下位に対して行う作法だ。相手を認めて初めて名乗る。皇帝に対し、名乗るに値しないと公爵は言い切ったも同然だった。


 国の頂点に立つ皇帝を公然と見下す行為に周囲がざわめく中、シェンは肘を突いて笑う。


「名は?」


 無言が返り、シェンは笑みを深めた。罠にかかった獲物を仕留めるのは、狩人の手腕ひとつ。ここは歴史に残る派手な演出をしてやろう。


 理解していないエリュは、きょとんとしている。こっそりと声を送り「しばらく口を開かないで。話したらエリュの負けだよ」とゲームを持ちかけた。最近、こういった遊びを繰り返したので、彼女はすぐに頷く。勝ったらお菓子を余分にもらえるのだ。今日もそうだと思い込んだ。


「ベリアル、公爵家の阿呆と我、どちらが上だ?」


「シェーシャ様にございます」


「あの阿呆と我が庇護する皇帝エウリュアレ、どちらが上か」


「皇帝陛下にございます」


 ベリアルは淡々と答える。その冷え切った声に、周囲の貴族は緊迫した面持ちで一歩下がった。


「ならば、あそこの阿呆を我が処分しても構わぬな」


 ぶわっと魔力を放出する。背後に巨大蛇の幻影が見えるほど濃厚な魔力に、数人の貴族が中てられ倒れた。

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