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【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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43.唯一の皇族という細い糸

 魔族を庇護する神に問い詰められ、ベリアルは渋々口を開いた。


「シェン様の仰る通りです。前皇帝陛下ご夫妻は……謀殺されました」


「手段は?」


 エリュには今、リリンが付いている。護衛が必要という建前だが、間違ってもエリュに話を聞かれたくない事情があった。シェンの予想が当たっていれば、彼女には辛い事実が潜んでいる。


「赤子だったエリュ様を人質に取られ……申し訳ございません。お守り出来ませんでした」


 自らの失態を悔やむベリアルを責め立てる気はない。当事者として辛い思いをして、後を追うことも許されなかった彼の痛みは理解できた。だが予想通りすぎて、眉を寄せてしまうのは仕方ない。


「僕が目覚めている時期ならよかったのに」


 名を呼ぶだけ、願うだけで繋がったはず。助けられなかったことを悔やむのは、当時現場にいたベリアル達だけじゃなく、関わることが出来なかったシェーシャも同様だった。


 ベリアルが語った話は壮絶だった。アドラメレクは最期の一息まで、妻フルーレティを守る盾となる。攻撃手段を放棄し、ただ守りに徹した。息絶えた夫を抱き締め、戦う術を持たないフルーレティも死を迎える。だが彼女の死によって、ベリアルやリリンを阻む結界が消えた。一瞬の隙を突いたベリアルが転移でエリュを攫い、追う敵をリリンが防いだ。


 エリュが人質に取られなければ、避けられた悲劇だ。無力な赤子だったからこそ、最後までエリュの命を奪われずに済んだ。抵抗できない赤子などいつでも殺せる、と考えたのだろう。ベリアルやリリンの助けを阻んだのは、フルーレティがエリュの将来を憂いたから。愛娘の元に優秀な側近を残そうとしたのだ。


 当然、犯人の一族は全員処刑された。生まれて間もない子も含め、分家まで処理したとベリアルは言い切る。声に悔しさと怒りを滲ませて。


「もしエリュが殺されていたら」


「ええ、魔族はこの世界から消えていたでしょう」


 これは皇帝の子孫に受け継がれる性質だ。男系女系関係なく、魔族の命の礎となっている。現在はエリュしかいないが、本来は皇族の数は一定に保たれるのがルールだった。長い年月の中で形骸化し、夢物語となって途切れてしまったが。


「エリュに兄か姉がいればよかったんだけど、いまさら嘆いても遅いね」


 エリュは次世代の子どもを多く産む必要がある。まだ4歳の子が背負うには過酷な運命だった。皇帝に流れる神の血が絶える時、魔族は滅びる――。新たな命は生まれなくなり、残る命は短縮され数年で絶滅する。


 子を産む道具として利用されないため、重要な情報を隠したベリアルの判断は正しい。当時の皇族はエリュ一人で、庇護者が誰もいなかった。その状況で皇族の血を狙う獣の群れに放り出せば、無理やりエリュを成長させて子を成そうとする愚か者が出ただろう。


 器さえ成長させれば、無理やり子を成すことは可能だ。逆に精神が育たぬ方が、貴族には都合のいい傀儡となる。胸糞の悪い話だが、それが政の一面だった。


 周囲の誰も信じられぬ状況で、ベリアルの判断は間違っていなかった。だが、今の情勢に沿うかと問われたら、否定する。


「庇護者として我が名乗りをあげよう。その上で、エウリュアレの血を絶やすことの恐怖を喧伝すれば良い。心も体も必ず守るゆえ安心致せ」


 神の誓いと確約に、ベリアルは静かに平伏した。公表は一ヶ月後、国民が集う建国祭で行う。決まれば、あとは腹を括るだけだった。

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