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03.行方不明の主を追え!

 魔族を束ねるゲヘナ国皇帝という立場上、エリュの世界は狭い。人的交流においても、物理的な意味合いにおいても、彼女が接する場所は限られていた。


「私、お外が見たい」


 好奇心旺盛な子どもらしい、小さな我が侭だった。叶えるのは難しくない。ただ、護衛の手配が必要なので、即日出かけられるわけではなかった。


「分かりました。では、明後日に出かけましょう。湖や山がいいですか? それとも街にしますか」


「うんとね、人がいっぱいいるとこ!」


 両手を大きく広げて円を描くように振るエリュの願いを受け、ベリアルは街を選択した。約束をして嬉しそうに笑う幼女の姿が消えたのは、その日の夕方だった。





「陛下のお姿を見失うとは、どういうことか!」


 執務室へ飛び込んだ一報に、慌てて宮殿へ駆け込む。アリスターが咲き誇る庭が自慢の青宮殿は、皇帝の私的なエリアとして隔離されていた。外部からの侵入は極めて難しい。


「それが、お庭で花を摘むと仰って……茂みを回り込んだところで消えてしまわれたんです」


「消えた?」


 案内させた場所は、確かに薔薇が茂みになっていた。生垣とは違う柔らかなアーチを描いた枝を回り込むと、侍女がいた場所から死角になる。地面に直接手を触れて調べるベリアルの後ろから、がちゃがちゃと金属音をさせてリリンが駆けつけた。


「ちょっと! 陛下が行方不明と聞いたわ」


「お前も陛下のお側を離れていたのか? ならば今日は誰が……」


「え? ベリアルがいたんでしょ?」


 きょとんとした顔のリリンは、手短に話し始めた。曰く、訓練が終わったので皇帝であるエリュの元へ向かおうとしたが、ベリアルが一緒だと聞いた。その後、正面の大門で騒ぎがあり向かったらしい。


 ベリアルは眉を寄せた。彼はまったく別の話を聞いていたのだ。仕事が一段落ついた午後、主君の様子を見に部屋を出た。そこでエリュがお昼寝をしていると聞く。お茶に誘うのは時間をずらそうと執務室に戻り、届いた緊急案件を処理していた。


 互いの事情を掻い摘んで並べた二人は、同時に唸った。


「つまり、意図的に陛下から遠ざけられたのか」


「上等じゃない。ゲヘナの上層部を舐めてるの?」


 二人の瞳が真っ赤に染まる。魔族特有の現象で、感情が昂ったり魔法を使うために魔力を高めると変化するのだ。魔力に色があるとしたら、赤だろうと言われる所以がここにあった。


 真っ赤な瞳で頷き合い、リリンは追跡用に持たせたペンダントの位置を探る。ベリアルは地面に残された手掛かりを求めて、大地に手を触れた。


 強すぎる魔力に中てられ、卒倒する侍女が出ても気にならない。最優先は、愛らしい皇帝陛下の行方だ。


「あった!」


「見つけた」


 ほぼ同時に声を発した二人は、にやりと笑った。それぞれに得た手掛かりを元に飛ぶ。部下を引き連れて行く必要も、誰かに後続を頼む理由もなかった。


 魔国ゲヘナ最強の二人は、主の魔力と気配を辿って空間移動を発動する。たどり着いた場所で起こる惨事を予感させるように、空は真っ赤な夕焼けに染まった。

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