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22.だってシェンはシェンだもん

 たくさん遊んだら、次は仕事なり勉強が待っている。これは大人も子どもも同じだ。ベリアルは渋々仕事に戻り、代わりにリリンが飛んできた。というのも、彼女は昨日難しい書類や報告書と睨めっこしたらしい。


「疲れちゃったわ、もう」


 動くことは苦にならない彼女も、机仕事はお手上げだと嘆いた。エリュは頷きながら、朝のサラダを頬張っている。食べ方を注意するより、食べる楽しさを教える方が先。そう主張したシェンに従い、今はうるさく作法を教える者はいない。


「これ、もう一回ちょうだい」


「おかわり?」


「うん」


 じゃがいものポタージュが気に入ったみたい。おかわりをたっぷり注いでもらい、嬉しそうにお礼を言った。こういう礼や挨拶ができれば、最低限困ることはない。歳を経たからこそ、シェンはそう考えた。かつては礼儀を無視した若造を噛み殺したり、尻尾で叩き潰した蛇神とは思えない緩やかさだ。


 あの頃の残虐な噂が残っているので、今も畏れられる蛇神だった。神としては間違っていないのかも知れない。


 あまり好きではない、正直嫌いなのだろう。サラダを後回しにするエリュは、ポタージュを飲み始めた。半分ほど飲んだところで、シェンが器を取り上げた。


「あ、まだ」


「サラダ、全部入る? 食べられなくなったらもったいないよ」


「……うん」


 自分でも分かっているのだが、好きな食べ物を優先してしまう。一度取り上げたポタージュを、エリュの前に戻した。


「サラダを後半分食べて。残りは僕が食べるから」


 野菜を好きな子どもは珍しいが、エリュの場合は生野菜に限られる。肉や魚の付け合わせにされる緑黄色野菜は、気にせず普通に食べた。だからこれはご褒美を兼ねた提案だ。


「いいの? 後でシェンが叱られない?」


「平気。それよりお姉ちゃんと呼ぶのは終わり?」


「だって、シェンはシェンだもん」


 ある意味、この子は才能があるのかな。力がないだけだ。頷きながら、シェンはサラダを半分、自分の器に引き受けた。残った野菜を先に片付け、エリュは再びポタージュに夢中になる。大きなスプーンが合わないのか、ぽたぽたと胸元に零した。


 慣れたもので、侍女が付けたミニエプロンがいい仕事をしている。食べ終えたエリュの手と口をよく拭き、侍女は慎重にエプロンを外した。可愛い緑のワンピースを守り抜いたようだ。白いスープで汚れなかったエリュは、ご馳走様をして席を降りた。


 サラダもすべて食べ終え待っていたシェンの手を握り、パンを口に投げ入れたリリンを振り返る。


「シェンとお庭にいるね」


「っ、私も参ります」


 紅茶でパンを流し込み、詰まったのか顔を顰めたリリンだが、無事飲み込めたらしい。立ち上がり、侍女に挨拶をして剣の鞘を掴んだ。


 追いかけてくるリリンを待ちながら、二人でゆっくり庭へ向かう。青宮殿の名の由来となったアリスターが咲き誇っていた。


「綺麗だね」


「今日は何する?」


 顔を見合わせ、ちらりと後ろを振り返る。まだ距離の空いているリリンを確認し、にっこり笑った。


「せーので、隠れるからね」


「せーの!」


 わーい! 全力で走り出す。二人はそのまま庭の迷路に飛び込んだ。

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