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12.陛下と肩書きで呼ばないで

 お昼寝から起きたら、シェンが手招きする。一緒にベッドを滑り降りて、二人は駆け出した。靴も履かずに、きょろきょろして廊下に飛び出す。誰もいない廊下を横切った向かいの部屋に入った。


 カーテンが開けられた北側に窓のある部屋は、誰も使っていなかった。その部屋をエリュは興味深そうに見回す。常に狙われる彼女の行動範囲は狭い。この部屋は目の前にあったのに、初めて足を踏み入れた。


「ここ、初めて」


「大冒険だよね、こっちきて」


 シェンが招くままに部屋の中を右へ左へ走り回り、続き部屋のトイレや風呂も眺めた。自分の部屋に似ているところと、違う部分を指差して笑う。間違い探しだと言って、シェンも一緒に楽しんだ。


「ここが今日から僕の部屋。でも一緒に眠るから、あまり使わないけど」


 違う部屋に住むのかと心配したエリュを先回りして、眠るのはエリュの部屋と言い切った。この部屋にも立派なベッドはあるが、エリュは本来まだ両親と共に眠ってもおかしくない幼女だ。シェンは彼女の精神面での発達が心配だった。


 年齢以上に幼くて、純粋。これではすぐに騙されてしまうし、そもそも皇帝陛下として立つなら未熟過ぎた。そこがエリュのいいところ。そう考える輩ばかりではないだろう。ベリアルやリリンの心配も理解できるから、シェンは自分なりに彼女を守るつもりだ。


「エリュ、知らない人に会ったら僕の名前を呼んで。すぐに駆けつけるから。ついて行ってはいけないよ」


「わかった。シェンを呼ぶ」


 しっかり頷いて理解したと示すエリュの頭を撫でる。本来の姿では大き過ぎて潰してしまうし、この姿では背が届かない。もう少し成長した姿にすればよかったか。僅かな後悔を噛み締めながら、背伸びして撫でた。嬉しそうなエリュを見ながら考える。半年で親指くらいの身長なら伸びても不自然じゃないはず。


「陛下! 蛇様!」


 侍女のケイトが、お昼寝から起きた二人を探す声が聞こえた。その呼び名にシェンは眉を寄せる。


「蛇様はひどいな、何か考えよう」


「シェンじゃダメなの?」


「だったら、エリュも陛下じゃないよね」


 うーんと考えながら廊下に出ると、青い顔をしたケイトに抱きしめられた。二人まとめてなのが、ちょっと嬉しい。


「ケイト、蛇様はひどい。シェンと呼べ」


「分かりました。シェン様ですね」


 物分かりの良いケイトは、すぐに順応した。優しくて理解が早い。皇帝陛下の侍女に任じられるだけのことはある。シェンが満足げに頷いていると、エリュがおずおずと切り出した。


「私も、エリュがいい」


「……エリュ様、ベリアル様の許可が出たらにしましょう」


 この場は呼ぶが、正式に宰相の許可がいる。そう示した彼女に頷き、シェンはにやりと笑った。ついでだから、皆に呼び名を徹底させよう。肩書きで呼ぶなんて失礼だからな。幼子に似合わぬその顔を、ケイトが苦笑しながらつつく。


「シェン様、エリュ様。おやつの時間ですわ。その後は、礼儀作法のお勉強をしましょうね」


 午前中に予定されていたお勉強を、散歩ですっ飛ばしたので午後に変更された。告げられた内容を、エリュは素直に受ける。


「うん。先におやつ食べる」


 右手をシェンと繋ぎ、左手をケイトと繋ぐ。幸せそうにエリュは部屋に戻った。今日のおやつは、小さなパンケーキ。沢山の果物とクリームが載ったふかふかのパンケーキに、二人の幼女は笑顔になった。

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