表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編小説 

あっちは危険です

作者: 多田真

 あっちは、危険です。そんな言葉が、警告音共に目の前に表示されたらどう思うだろうか。きっと皆、唖然とし、周囲を見回すだろう。通勤の為に、地下鉄構内一歩入り込んだ途端に赤、文字の警告音と共に視界一杯に広がったのである。思わず声が出て、体が跳ねた

 だが、周囲の人は、そんな私をおかしな目で見つめ、構内に続々と入っていくのである。

 周囲を見渡すが、そんな私を邪魔にし、中には舌打ちをする輩までいた。

 おかしい。

 困惑と羞恥、そしてこの摩訶不思議な現象に興味を持った

 もう一度、右足で踏み込む。

 

 あっちは、危険です。

 また警告音と共に、再度表示される。幻覚でもなく、幻聴でも無かった。再現性のある事が確認されたのである。では、左足ではどうなのか。今度は、左足で踏み込む。


 あっちは、危険です。

 二度踏み込んだ性か、今度はパチンコの確変のように表示された。

 なぜ、そのフォントなんだ。

 意味が分からない。

 

 左足と右足でフォントが違った。では、交互にやってみるのはどうだろうか。

 通常。

 確変。

 通常。 

 確変。

 通常。

 確変。

 通常。

 確変。 

 etc……


 この時点で、人の目は頭から抜けていた。冷静に考えれば、私はこのときおかしな人間だった。交互に右足と左を出し、駅構内に入って行かない変なスーツを着た、恐らく出勤前の会社員。


 そう、私だ。

 だからこそ、警官から声をかけられるのも当然だった。

「どうされましたか? 」

 私は、足を交互に出すのを止めて背後から話しかけてきた人物に振り向く。

「あ、いやフォントがちょっと面白くて」

「は? 」

「あぁ、いや、えっと」

 困った。どうしよう。

 警官は、私の解答に対し怪訝な顔をする。同時に私は、警官に話しかけられた私に対して向く視線にやっと気づいた。今の今まで、夢中になっていたのだ。

 だって、フォントが……

 いや、そんなことは伝わる訳が無い。

「あ、私そろそろ電車に……」

 そう言って、その場を後にしようとする。

「何時の電車ですか? 」

「7時50分の、○○駅までの電車です。あ、もう良いですかね。私そろそろ行かないと」

「もう、発車していますが」

「え」

 慌てて時計を確認する。

 時刻は、8時30分。

 遅刻である。もう、タクシーを使わなければ間に合わない。


 私は、その場を後にし、職場へと急行する。

 あっちは、危険ですとは、今度は表示されなかった。


 タクシーに乗り込んだ私は、急ぎ会社に連絡を取った。

「連絡が遅れてしまい申し訳ありません、営業の千葉ですが……」

「おう、千葉。生きていたか! 」

「は? 」


 私は、死ぬところであった。

 私が乗る予定であった電車が、事故を起こしたのだ。

 死傷者も出る大きな事故だった。


 あのメッセージは、その後表示されることは無かった。幻覚なのか、幻聴なのか、妖怪にでも化かされたのか。真相は分からないが、私は生かされたのだ。

 出勤のため、玄関の扉を開ける。

 

 あっちは、危険です。


 今日は、会社には行かないことにする。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ