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ミソラ・カスタムの逆襲  作者: 最灯七日
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第6話 空を飛ばせて

【前回のあらすじ】

ひたすら研究。実験。誰に言われようと、気分は孤高の天才発明家(※気分だけは)

 それから一カ月と少々。

「返せ!」

「あはは、取れるものならとってみろ、バーカ」

 教室内ではミソラ対数人の男子生徒の低レベルの戦いが繰り広げられていた。

 何のことはない、ミソラが研究成果を日々書き溜めている例の鍵付きファイルを、悪戯心で男子生徒が奪い取って仲間と巧みなパス回しを始めたのである。身長差からしてミソラに勝ち目はない。

 尤も、鍵がかかっているのだから連中に中身を見られることはないという事に、ミソラは全く気付いていないようだが。

「ったく、ガリ勉なんて似合わねーんだよ、バカのくせに」

「誰がバカだ!」

「お前以外に誰がいるんだよ。ほれ、パース」

 鍵付きファイルがくるくると回転しながら宙を舞う。

 ミソラは無理矢理ファイルに飛びつく。が。

「危ない!」

 派手な音と共に惨事が起きた。ミソラが勢い余って机に突撃したのである。

「ちょっと、何やってんの!」

 セイラの金切り声が響く。よりにもよってミソラが突撃したのはセイラの机であった。

「いや、悪いなセイラ。大丈夫だったか?」

「大丈夫じゃないわよ! あーもう、散らかったじゃない!」

 一度セイラの癇癪に火がつくと、暴走は止まらない。

「ミソラ・カスタム、あんたいつまで寝てるのよ! さっさとどいて! 本当にのろいんだから!」

 怒りの矛先は完全にミソラの方へ向けられている。いや、矛先というより捌け口だろう。

 ミソラはよろよろと立ち上がる。打ち所が悪かったのか、片目が腫れている。

「おお、妖怪みてーだな、ミソラ。ハハハ、マジうける」

「本当だ、なんか三角巾被って井戸で皿数えてそうだな」

 男子生徒たちの笑い声が教室に響く。セイラの横にいたルナもつられて笑った。

「ちょ、笑ってないで私の机片付けてよ!」

「あ、ごめんねセイラちゃん。……ほら、そこのバカ。さっさと片付けて!」

 ルナの、セイラに向けられる声とミソラに向けられる声の質が全然違う。ミソラがそれが気に食わなかった。

「さっさとしな、片付けくらいサルでも……」

 ルナの言葉が言い終わらないうちに、ミソラは床に倒れているセイラの机を思い切り蹴飛ばした。唖然とするクラスメイト達。

「な、何やってんのよ、バカ!」

「うるさい、バカ!」

 ミソラの叫びが教室中に響いた。

「どいつもこいつもバカ共が! 調子に乗るな!」

 言うや否やミソラは自分の席に戻り、通学用に使っているリュック型鞄をいそいそと背負う。

「私をバカだと言うんだったら今からグラウンドへ出ろ! バカはどっちか証明してやる!」

 バタバタと慌しく教室を飛び出すミソラ。

 クラスメイト達は唐突過ぎるミソラの奇行に、ぽかんとしている。

「……何なんだ、あいつ」

「ちょっと、男子! 机片付けるの手伝ってよ!」

「ったく、しゃーねーなあ。とりあえず机を元の場所に戻すか」

 何事もなかったかのように、元の調子に戻るクラスメイト達。

 誰一人としてミソラの後を追いかける者はいなかった。




「ん? ミソラ・カスタムは欠席か? 今朝はいたような気がしたが」

 授業にやってきた担当教師が、空席になっているミソラの机を見て不思議そうに呟いた。

「あとそれから隣のクラスから騒がしいと苦情が来たぞ。小学生かお前ら」

「先生、それは……」

 クラウディアが挙手をしながら立ち上がり、事情を説明した。

 直接原因に関わった男子生徒たちは少し罰の悪そうな顔をし、セイラとルナは「私は悪く無いし関係ない」と言いたげな顔をしていた。

「つまり、くだらないケンカが原因か。本当にお前ら小学生からやり直せって感じだな」

 担当教師は呆れながらため息をついた。

「お前らに責任がある以上、あいつをほったらかしにするわけにもいかんな。今から全員グラウンドに行ってあいつを連れ戻すぞ」

「そんな! 私は机ぐちゃぐちゃにされた被害者ですよ!」

「拒否は認めないぞ、セイラ・マイスター。お前も頭があるのなら、どうしてミソラ・カスタムがあんな行動をしでかしたのか考えてみろ」




 担任を含めたクラス全員がグラウンドに出ても、そこにミソラの姿はいなかった。

「なあ、あいつここだって言ってたよな?」

「間違いなくグラウンドって言ってたぞ。あいつ、待つのが嫌になって帰ったんじゃね?」

「だったら教室戻ってきても……あ! あれ!」

 クラウディアが指差した。差した角度は斜め上を向いている。

「あっ!」

 全員が息を飲むことになった。指が差した方向にあるのはアカデミーの校舎屋上。落下防止用の柵の外側に、鞄を背負ったミソラが立っていた。足場は靴1つ分の幅しかない。

「ばっ……! おい、冗談だろ!」

「ミソラちゃん、危ないから戻って! 柵につかまって!」

 本音だけ言えば、この場にいる大半の人間はミソラがどうなろうと知った事ではないだろうが、目の前で「それ」が起こるとなると話は別だ。命に関わる緊急事態を前に、平静でいられるはずがない。

 グランドで大騒ぎになっている事に気付いたのか、ミソラの顔がこちらに向けられた。何か喋っているようにも見えるが、こちらからでは分からない。

 そして

「ミソラちゃん、ダメぇーっ!」

 クラウディアの悲鳴に包まれながら、ミソラの身体が落下した。

 まさに、理不尽にして最悪の結末。

 目を背けたくなる悲劇に、誰もが夢だと願いたくなったその時。

「え……?」

 場にいた全員が目を見開いた。

 ミソラの小さな身体は、地面には落ちていなかった。

 地面より、数十センチ上で、頭と手足を下に向けたまま、くの字の状態で宙に浮いている。

 そして彼女の背負っている鞄の隙間からは、巨大な七色の翼が生えていた。高さにして校舎の1.5階分ある。

「……なに、あれ?」

 セイラが表情を引きつらせながら言った。だが、それに答えられる者はいなかった。




 その後、ミソラは校舎から飛び降りという危険行為を犯した罰として、彼女が日夜勤しんでいた研究の中止を言い渡された。

 ミソラはこれに対してとても不服だったが、本来なら放校処分になってもおかしくないと返され、何も言えなくなった。

「ったく、人騒がせな奴。結局何がやりたかったんだよ」

「まさか、鳥になった気分とか? だっさー。つうか似合わない」

「しかも飛べてないし。イカロスくらいの根性をみせろっつーの」

 大騒ぎしていたクラスメイトも、事が終われば元通りである。

 何一つとして、ミソラの野望は叶わなかった。事実上の敗北である。

 普通ならば逆襲としての話はここで幕を閉じるのだが、この件にはまだ続きがあるのである。

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