無縁墓地と教皇庁のガキ
ゲオルの記憶を頼りにオルタリアは蔦の多い森の中を進んでいく。
森の中はふたりの息遣いと足音しか聞こえない。
鳥の声のひとつでも聞こえてきそうだが、この無音の環境下ではオルタリアとゲオルだけが生き物としての音の起点。
ゲオルの草を掻き分ける音と、オルタリアの鼻歌が波紋のようにゆるやかに周囲に広がる。
不気味なほどに動物の気配が感じられなかった。
その意味を目的地を見つけたことで、理解することになる。
朽ち果てたアーチの門、野ざらしにされて周囲一帯は雑草が支配していた。
濁りきった水溜まりの上で落ち葉が寂しく浮遊している。
とても孤独な場所だ。
────その奥で忙しなく蠢く怪しい集団を見るまでは。
「……おい、先客がいるみたいだぜ」
「そうね。装備を見た感じだと……あれは教皇庁の兵士ね」
「教皇庁だと? まさか奴らも聖盃を?」
「ちょっと黙ってて。様子を見ましょう」
ふたりは陰に隠れて教皇庁の兵士たちの動きを観察する。
蔦や苔に覆われた墓石を砕いては土を掘り起こし、かつての美しさの面影もない石像を押し倒してはその下を何度も確認していた。
この不可解な行動をする一団の中で、少女のけたたましい罵り声が急に聞こえてきた。
「ちょっとアンタたちさっさとしなさいよ!! ほんっとウスノロなんだから!」
「申し訳ございません。ただいま急ピッチで作業を……」
「はぁぁぁあぁぁあああ? そーゆーことじゃないんですけど~? アタシがここへ来るまでに見つけといてって言ったじゃん。できてないじゃん。あ~ぁ、萎える~超萎えるんですけどぉ~。アタシより大人のくせにまともに仕事もできないのぉ?」
「ぐ……」
「あれ? もしかしてちょっとイラッとしてる? キャハ、雑ッ魚ぉぉおい。そんなんだからいつまでも下っ端なのよねアンタたちは。」
黒髪のツインテールの少女が、四つん這いになった兵士をイス代わりにして足を組んでいる。
そして整列する数人の兵士を嬉々として煽り倒していた。
この兵士たちを束ねる長のようだが、自分の部下すらぞんざいに扱うそれはまさに暴君。
しかも彼女はゲオルよりもずっと歳下で、自分よりもずっと大人な兵士たちにワガママをとおす様はまさに生意気が人間の姿をしているといっても過言ではない。
「……教皇庁は嫌いだが、あれにゃ同情しちまうぜ」
「そう? あぁいうの喜ぶ男もいるらしいけど? アナタも実は……」
「ご冗談。つーか、あんなの喜ぶ奴なんてこの世にいるわけねぇだろハハハ。あー……なぁ、マジで喜ぶ奴いるのか嘘だろ?」
「まぁずっと村にいたからね。ほら見なさい、あのイス役やってる兵士の顔」
「……見なきゃよかった夢に出てきそうだぜ」
軽く首を横に振りながらも呆れるゲオルに対し、終始視線の先の兵士たちの動向に目を配るオルタリア。
「……しかし驚きだわ。まさか『墓荒らしのアルクス』がここにいるだなんて」
「アルクス? あのちっこいガキか?」
「えぇ、彼女は聖母信仰の本元、プレロマ聖母教団に仕えている大騎士よ。主に担当は異教の神殿の破壊、系統の墓を暴いて中にある財宝を奪うこと。特にお宝探しに関してはアルクスは一級品らしいわ」
「墓荒らしもお仕事の内ってか。クソ……テメェらだけ好き放題やりやがって」
(でも妙ね。ここのお墓はどう見ても聖母信仰のもののハズ。打ち捨てられた場所だったから? いや、もしかしたら)
オルタリアはこの状況に一種の可能性を見出す。
武者震いでゾクリと身体を振るわせて、下唇を舐めた。
「ゲオル、もしかしたら大発見があるかも」
「マジでか? まさかここに聖盃が」
「それはわからない。でも、あそこまで動員して探してるってことは相当な価値のあるものかもしれないわ」
「へへへ、面白くなってきやがったじゃねぇか。で、どうするよ?」
「……ゲオルはここにいなさい。私がやるから」
「オイ待て待て待て! 道案内で終わらす気か? 俺もやるぜ。これ以上アイツらに好き勝手やらせてたまるかよ!」
「私は大丈夫だけど、アナタは違う。死ぬかもしぬかもしれないのよ? いや、むしろ死ぬわね」
「自分の身くらい自分で守ってやらぁ。で、どうすればいい?」
真っ直ぐに見つめてくるゲオル。
彼の思いを汲み取り少し思案するがやはりいい塩梅の手は見つからない。
もう少し待って、連中がお目当ての場所を見つけた直後に殴り込みにかかるのがオルタリアとしては一番の手段だ。
火の獣法の能力が、彼女を死んでも復活させる。
そればかりかカウンターまで決めてくれる仕様になっているのだ。
もっともあの程度の敵であれば、無傷で片付けられる自信があった。
なのでゲオルをここに置いて自身は皆殺しを愉しむつもりだったのだが。
(無視して勝手にやるのもいいけど……あんなに真っ直ぐ求められちゃうとねぇ。それに、ちょっと見てみたい気がする)
いいアイデアが浮かばず困った風だったが、ゲオルの戦闘能力を考えると、戦いに身を置く者としての血が騒いだ。
そうこうしている内に、教皇庁の兵士がお宝が眠るだろう地下の入り口を見つけたらしい。
「……言っておくわよ。ここまで来たらもう生死は自己責任よ」
「上等だ。俺にも暴れさせろよ」
ゲオルは解放された反動で暴れたいという衝動に駆られていた。
隻腕でありながらも魔獣症候群に引けを取らないあの勢いには大いに期待はできるが、オルタリアなりに気をつかい、無理はさせないようにする。
「残念だけど、一緒に戦うなんてことはしない。いいよく聞いて? 私が連中を引き付けるから、アンタはなるべくダッシュで誰にも見つからないようにあそこに入り込む。できる?」
「ちっ、まぁいい。わかった。アンタの指示に従うよ」
「上等。────さぁ、行くわよ!」
飛び出してハサミと大剣のパターンを使い分けた重量武器術での大立ち回りを見せるオルタリア。
突然の奇襲に現場は騒然として、血飛沫と断末魔が宙と大地を彩った。
「やっぱスゲェなあの女。あんなに強かったのか……ッと、いけねぇ早く行かねぇと」
ゲオルは墓石や石像などに隠れながら、地下への入り口まで走り抜く。
見る見る内に数は減っていく。
全滅まで時間の問題だろう。
「さぁ、いくぜ。どんな罠でもかかってきやがれ」
深呼吸をしてから、暗黒の世界へと繋がる入り口へと入っていく。
その際に近くに置いてあった備品のひとつである、カンテラと火を拝借した。
だが、その一瞬の行動を見抜いた人物がいる。
「な、な、な、なによアイツぅ~~ッ!?」
────墓荒らしのアルクスである。




