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やっぱ墓より酒場がいい

「……アンタが暴れたあとって大抵こうなのか?」


「だって興奮しちゃったんだもん」


「だもん、じゃねぇよ。……うぇえ」


 抜け出した直後に映った光景に、ゲオルは顔をしかめた。

 そこかしこに転がる兵士たちの死体の顔は絶望と恐怖で固まっている。


 両親との戦いで彼女の戦いぶりは見たが、それ以上の惨劇が起きている現場からしてオルタリアの底知れない強さが不気味な想像としてよぎった。


「しっかりしなさいな。これから少し歩くことになるんだから」


「歩くってどこに? 俺もか?」


「当たり前でしょ。お宝ゲットの報告をしに行くの。ついてきなさい」


 ゲオルが聖遺物を持ったことで事態は変わった。

 聖盃はなかったにしろ、こうしてひとりの青年が聖遺物を手にして使いこなしているのだ。


 当然、証拠として依頼人に報告しなければならない。

 その際ゲオルは特に悩むことなく承諾した。


 もう帰る場所もない身であるため、このまま流れに身を任せるのも悪くはない。

 

(それにおっかねぇ強さとはいえ、こんな美女と一緒にいられる機会ができたんだから、逃す手はねぇだろう)


 この義手についても気になっている。

 あのとき死んだにも関わらず、なぜ甦ったのか。


「あぁそうだ。この義手のこととか話さないとな」


「勿論教えてもらうわ。歩きながらでいいわね」


「わかった」


 道中、ゲオルはオルタリアにことの顛末てんまつを話した。

 メシュケントと言われる髑髏の騎士、そして聖母像での出来事を。


 その話を聞いてオルタリアはギョッとした。

 

「アナタ……メシュケントって誰かわかってる?」


「クイズは苦手だ。はっきり言ってくれ」


「いい? メシュケントって言うのは勇者伝説に出てくる護国の英雄の名前よ。聞いたことない?」


「ねぇよ。で、なんでそのかつてのヒーローが墓の中でバケモンやってたんだ?」


 彼の様子からしてあれがなんであるかを知らないようだ。


 この世には『マガツ』と呼ばれる化け物がいる。

 過去に存在したとされる魔物や人を模した、亡霊のような存在だ。


 メシュケントも然り。

 だが通常のマガツとは違い、非常に強力な力を持つ部類となる。


 それを『オオマガツ』と言い、過去に英雄や聖人として崇められた人間の魂や、強大な力を持った魔物がマガツ化したときに、ああして顕現する。


「オオマガツ、ねぇ。いや、マガツってのはチラッとは聞いてたけど、村の周りにはそういうのいなかったし。……そんなスゲェのが近場にいたなんてよぉ。ゾッとしちまうぜ」


「でもそのレベルをブッ飛ばしたんだから大したもんよアナタ」


「お、やっぱそう思うか! いやぁ、もう俺最強に片足突っ込んでんじゃねぇかなって思ってたところだよ。うん」


「えぇ、強いわね。その義手は」


「……お世辞でもいいから褒めてくれ」


「うふふ。……しっかし妙ね。オオマガツが聖遺物を守ってたなんて。確かにオオマガツの近くにはお宝が多いっていうのは聞いてるけど、聖遺物なんて今まで聞いたことないわ」


「まぁ腐っても騎士って感じだったから、よっぽど大事だったんじゃねぇか?」


 隣で肩をすくめるゲオル。

 その横で神妙な面持ちでオルタリアはこれまでのことを思い出していた。


 ゲオルの復活が妙に引っ掛かっていたのだ。


(聖遺物は数あれど……、聖盃でもないのに持ち主を死から復活させるなんて。そんな聖遺物聞いたことないわ。もしかしたらかなり特別な物なのかもしれない)


 オルタリアに自然と笑みが零れる。

 ゲオルとの出会いに運命を感じざるを得ない。


 情報通のアンゲルスの知識が必要だ。

 彼ならばゲオルの義手がなんなのかを知っているかも。


「この丘を越えたら町につくわ。まだ歩けるわよね?」


「できりゃ馬車にでも乗りてぇが、そんなもんはねぇよな」


「ないない。さぁ、見えてきた! ようこそ、『外の世界』へ」


 丘を越えた先に見える風景。

 色取り取りの屋根に、無数の旗、風に混ざって薄紅色の花弁が舞っているのがわかる。


 街の背後には山河が広がり、その奥には鬱蒼とした谷があった。

 村の外に広がる光と闇の光景に、思わずゲオルは息を止めるほどに目を輝かせる。


「……たまげた」


 右の頬を撫でるように全体を力なく見渡していく。

 ハッとしたときにはオルタリアは街へと歩いていた。


「ちょ、待て! 置いていくな!」


「ほらボサッとしない! せくせく歩けー」


 自然から、人混みへ。

 風と木の音から、賑わいへ。

 花の薫りから、酒や食べ物の匂いへ。


 オルタリアはそんな中でもひと際目立つ。

 口笛を吹いて気を引こうとする酔っ払った男たちに対し、にこやかに手を振ったりウインクしたりと初対面でも友好的。


 さらには通りすがる男女を規格外の美しさと露出度で思わず赤面させてしまうほどに周囲を色めかせた。


 そんな中でも鼻歌交じりに例の酒場へと足を進める。

 彼女の後ろでは何度も首を左右に傾けて、気を入れ直すゲオルの姿があった。


(ビビんな、そうだビビんなゲオル。舐められっからな……ウシッ!)


(なにやってんのかしらあの子……)


 遅れて歩いてくるゲオルを心配したオルタリアが振り向くと、賑やかなところに慣れていないのか緊張の様子がまざまざと見えるゲオルに小首を傾げる。


 だがそこに愛嬌を感じ取ったオルタリアは少しペースを落として彼の歩幅に合わせることにした。

 すぐにでも報告しに行きたかったが、そこは年上の余裕を見せつけるということで、ゲオルの緊張をほぐしてやることにする。


「あらあら、村のボーヤには早すぎたかしら?」


「じゃあなんだ? おてて繋いでくれんのか?」

 

「恋人繋ぎ?」


「それ最高」


「ふふふ、デートするときがあったらね」


「へっ、お預けかよ」


 ゲオルの表情が和らぎ、自然と笑みが零れる。

 作戦成功とオルタリアもほころんだ。


 しばらく歩くと人通りの少ない場所へと行きつく。

 街の中にある貧民地区、そこでもオルタリアはそこの住人たちに明るく振る舞っていた。


 皆彼女を知っているのか、同じく手を振ったり笑顔を見せたりする。

 あまりの光景にゲオルはポカンとしながらも彼女の後ろをついていった。

 

 そして見えるは地下への階段が設けられた建物。

 その階段を降りた場所にある酒場だ。


 だが、実際には入る前に依頼人のアンゲルスに出会った。

 

 そしてアンゲルスは一目で驚愕する。

 ゲオルに装着されたその黒義手の存在に。

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