物語猫
そのオーダーに答えるにゃん。と、ぷるぷると物書き猫は震えながら答えた。皆の声の元、物書き猫は小さなお口にペンを咥えて物語を書き綴ります。そして、言うのです。
「お口疲れちゃったにゃん。首も痛いにゃん。」
そう言いつつも物書き猫は書き綴ります。頭の中にある幻想を。冒険譚を、恋物語を。形にしなければ誰の目にもとまることのない形のないものを、不確かなものから確かなものに変えて、命を吹き込んで。書き綴る物語が誰かの心に響くことを祈って、物書き猫は口からペンを落としそうになりながらも一生懸命物語を書き綴ります。
けれど書き綴れば書き綴る程、物書き猫の身体は小さく、小さくなっていきます。そして、その小さな四肢にもだんだんと力が入らなくなってきて・・・・・・やがてペンを咥えることも出来なくなって、コロコロとペンは転がり、ついには物書き猫は動かなくなってしまいました。
物書き猫が動かなくなってしまってからしばらくのこと。その小さな身体に白い雪が降り積もって誰からも見えなくなってしまった頃のことです。物書き猫の書き綴った幻想が、冒険譚が、恋物語が評判になりました。
でも、誰も物書き猫の事を知りません。人々は懸命に物書き猫のことを探しました。それでも見つかりません。物書き猫は降り積もった雪の下に埋もれています。誰も、物書き猫を見つけることが出来ませんでした。
そして、ある日スコップを片手に辺りの雪を掘り始める人間が現れました。
「何をしてるんだい?」
「探しているんだ、あの物語の続きを。」
スコップを持った人間は懸命に掘り続けます。すると、今まであまり目を向けられなかった物語たちに光が当たりました。真っ暗な光の届かない雪に埋もれた数々の物語。それは今まで知られることのなかった幻想の物語。
スコップを持った人間はその幻想譚を冒険譚を、恋物語を一つ一つ大事に、丁寧に懐に入れて光の下へと持ち出します。けれど、それを書き綴った『誰か』は見つかりませんでした。それでも・・・・・・あきらめずに黙々と掘り続けて、ついに物書き猫が見つかる時が来ました。
けれど、雪に埋もれていた物書き猫はピクリとも動かず、身体も冷え切っていました。ソレを見た皆は懸命に物書き猫を暖めようとしました。けれど時は既に遅く、物書き猫が動くことはありませんでした。
「あぁ、あの物語の続きはもう・・・・・・」
「好きだったのに。あんなにも、好きで、夢中になったのに・・・・・・」
失われてしまったモノはもう、二度と戻ることは無く。物語猫の身体も二度と動きませんでした。そして、物書き猫の咥えていたペンもまるで結晶が砕け散るように砕け、粉々になり消えました。
物書き猫はもう、動きませんでしたが、スコップを持った人間はそれからも黙々と掘り続けました。もしかしたら助けられるかもしれない。時を刻むことを止めた物語が再び時を歩み始めるかもしれない。まだみんなの知らない物語がそこにあるかもしれない。そう思って彼らは掘り続けるのです。
Twitterに唐突に書き綴った話を若干の修正をしてあります。
この作品を読んで頂ければ、それだけで私は嬉しく、嬉しく思います。




