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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第四章 魔王城(本気モード)で最終決戦することになりました
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「いてて……」


 転送陣の光が止むと同時に、セレステはそこが廊下ではないことに気がついた。

 どうやらオフェリアを守ることはできたようだが、自分は飛ばされてしまったらしい。

 周囲に広がるのは、威圧的かつ暗澹とした石造りの大広間である。下の玉座の間とは真逆と言ってもいい、薄暗く不気味な空間だ。


 見上げれば、高い天井からは魔力灯の大きなシャンデリアが下がっている。しかしその光量は少なく、むしろこの部屋を照らすのは前方――玉座からの赤い光だった。

 それは正しくは、玉座の直上に浮く禍々しい巨大な魔石の輝きである。

 セレステは直感した。あれがおそらく「コア」だ。

 よく見ると、赤黒く濁った内側では休むことなく魔力の塊が蠢いていた。おそらく、何らかの術式が常に実行されているのだろう。


「ちっ……リアを呼ぼうと思ったのに、いらないやつが来ちゃった」


 舌打ちは、玉座の上の魔王――キーラだった。どうやら、あの転送陣でオフェリアだけをここに連れてくるつもりだったらしい。

 広間の奥、数段上がったところにある玉座は、コアの真下に鎮座していた。その上に座るキーラは、やはりぬいぐるみを抱きかかえてセレステを睨んでいる。玉座を守るように並ぶ、フルプレートを装備した大柄な機械人形は親衛隊だろうか。

 セレステはにやりと笑って、からかうように言った。


「あれ? 『リアなんか知らない』んじゃなかったの?」

「うるさい! ……どっちにしろ、お前も始末するつもりだったんだ。お前のせいで、リアは帰らなきゃいけなくなったんだからな!」


 キーラの怒りに呼応するように、コアが鈍く輝いた。


「!?」


 直後、セレステは異変を感じる。それは言ってみれば、身体に空いた小さな穴から少しずつ「何かが」漏れ出しているような感覚である。

 戦棍の鎚頭、白い輝きが弱まるのを見て、セレステはその正体に気づいた。

 魔力だ。身体の中の魔力が、徐々に減少しているのだ。


「ふふふ、魔力が少しずつ吸収されていくのがわかるか! 玉座の間に入るやつの力を奪う、コアの機能の一つだ! 人間にしてはなかなか魔力が多いみたいだけど……すぐに全部吸い取ってやる!」


 ヘルミナを拘束した時の魔石を使った魔力発散とは違い、これはコアに魔力を吸収する方式らしい。出力が少ないのが救いだが、戦闘が長引けばそれだけ不利になるだろう。

 できればコアを停止させたいところだが、あの手の魔石は魔術的にも物理的にもかなりの硬さを誇るはずだ。となると現状のセレステには難しい。

 では短期決戦でキーラと戦うか? いや、これもまた今の魔力量では困難だろう。かと言って、説得となるとさらに難しそうだ。

 ならばせめて、ジルたちが来るまでの時間稼ぎをしよう。

 セレステが心を決めて戦棍を抜くと、キーラは片手を上げて号令する。


「いでよ、魔物たちよ!」


 再びコアが鈍く光ると、玉座の前に魔法陣が現れた。

 転送陣とは違う紋様のそれは、生成陣。その名の通り、魔物を生み出すための陣だ。

 飛び出してくるのは、剣や弓で武装したゴブリンや、こちらも武装したオーク、魔狼、有翼屍人(アンデッド)などの多様な魔物である。

 セレステも生成陣から魔物が出現するのは見たことがあるが、それもせいぜいスライム程度までだ。ここまで複雑な魔物を生み出すのを目の当たりをにするのは、初めてのことだった。

 群れと言ってもいい一団を前に、セレステは思わず顔を引きつらせる。


「うひゃあ、魔物の大安売りって感じ……」

「やれ!」


 キーラの命令に応え、魔物たちは一斉に殺到する。

 セレステは戦棍をぐるりと回し、まずは先行してきた魔狼に狙いを定めた。

 飛びかかってくる頭部に横薙ぎの戦棍をめり込ませ、そのまま振り抜く。頭蓋を破壊されて地面に転がる魔狼はそのままに、セレステは次の標的を二体のゴブリンに移した。

 まとめて〈火焔〉あたりで焼きたいところだが、魔力を吸収されていることを考えるとなるべく温存しておかねばならない。ならば正面から殴り殺すのが最良だろう。

 剣を振り上げて突っ込んでくる子鬼めがけて踏み込み、セレステはその頭部を次々に叩き潰す。二体目は仲間がやられたと見て剣で防御しようと試みたようだったが、全力の戦棍の前には虚しい抵抗である。

 ゴブリンを剣ごと打ち砕いた直後のセレステに、鉄塊が襲いかかる。オークが振り下ろす巨大な斧だ。

 すかさず前転で避けたセレステは、立ち上がりざまに身を翻してオークに飛びかかった。渾身の一撃を外したオークは、床に刺さった斧を抜こうとしている。致命の隙だ。

 屈んでいるためちょうどいい高さにある頭に、全力で戦棍を振り下ろす。骨を砕く感触、必殺の手応えだ。

 巨体が音を立てて倒れるころには、既にセレステは急降下してくる有翼屍人の姿を捉えていた。おそらく相手は、鋭い爪での一撃離脱を試みるつもりだろう。

 セレステはすかさず戦棍に魔力を充填する。

 充填時間は一瞬、魔力は普段の半分以下――だが今回はこれで充分だ。


「〈衝撃矢(ショックアロー)〉!」


 鋭く疾い魔力の矢は、飛来する屍人の翼を突き破った。バランスを崩した有翼屍人は、勢いをそのままに錐揉みで落下する。

 何もできぬまま床に突き刺さった屍人は、完全な死を迎えたようだ。


「ちっ……使えない魔物どもめ!」


 ついに痺れを切らしたのか、苛立ちの声とともにキーラが立ち上がる。周囲にはまだ魔物の姿があるが、埒が明かないと見たのだろう。その両手には、既に真紅の魔力光が眩く輝いていた。


「ぼくが直々に殺してやる!」

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