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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第四章 魔王城(本気モード)で最終決戦することになりました
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 大扉を開けると、両脇を守っていたはずの機械人形はその場に倒れていた。

 傷は見当たらないから、内部の故障か何かだろう。あるいは、城が揺れた際に何かが起こった可能性もある。


「こっちだ」


 外に出た一行は、ラカの案内に従って廊下の先の階段へと向かう。廊下と同じく広い幅の階段は、いくらか登った所で踊り場を挟んで直角に曲がり、上へと続いているようだ。

 言わば、大きな回り階段とでも言うべきだろうか。


「この階段を登っていけば、真の玉座の間に辿り着けるはずだ。少なくとも、今はまだ」

「えっ、何その不穏な感じ」


 含みのあるようなラカの言い方に、セレステは不安を覚えた。今はまだ、というなら近いうちになにかが起こるということになる。


「今の魔王城は、言わば戦闘態勢にある。状況に応じて罠や魔物を展開させ、城の構造すら変化させることができるんだ。玉座の間へ続く道には、特に重点的な警戒がなされているだろう――つまり、この先なにがあってもおかしくはないということだ」


 やはり、道のりはなかなかに困難そうだ。

 セレステも一応、冒険者としてそれなりの場数は踏んできている。今更ちょっとやそっとのトラップで驚くことはないが、今回は何よりオフェリアを守りながら進まなくてはいけないのだ。

 できれば、そんな危険なルートは通らないで済ませたいものだが。


「転送術は使えないの? さっきキーラが玉座ごとやってたけど」

「あれは例外だ。コアが選んだものしか転送できないようになっている。それ以外のものは、今はもう転送室からも脱出できなくなっているだろう」

「じゃあ歩きしかない、ってことか」


 正面突破はセレステの好むところだったが、今回ばかりは気が進まなかった。

 仕方なく歩を進める後ろから、唐突に歯車の軋む音が聞こえる。

 振り返ると、倒れていたはずの機械人形がゆっくりと起き上がっていた。

 人形は腰の剣を抜くと、脚部から車輪を出して滑るようにこちらへ向かってくる。


「うわっ、こっち来た!」

「〈雷閃(サンダーボルト)〉!」


 凄まじい速度で接近してくる人形は、しかし無慈悲なほど強力な電撃で粉砕される。

 すらりと手を伸ばしていたのは、ラカである。やはり魔王の側近だけあって、その実力はヘルミナに勝るとも劣らないようだ。


「コアが命令を変更したんだろう。おそらく他の人形も――」


 ラカの声に応えるように、無数の機械音が廊下の向こうから聞こえてきた。

 一体目のメイド人形の姿が見えた直後、後を追うように人形たちの群れが出現する。

 剣や槍などの武器を持つ個体も多いが、腕などか飛び出した刃や鉄球を振り回している人形も見える。

 廊下を埋め尽くすほどの人形は、もはや一つの波のように殺到していた。

 途切れなく終わりも見えない群れとの接敵は、もはや時間の問題だろう。


「どうしますか!? あの速度だと走っても追いつかれそうですが……!」


 ジルは剣を抜くが、その表情には焦りの色が伺える。

 一体一体の能力は大したことないだろうが、あのでたらめな数である。その上、こちらには守るべき対象があるのだ。このままでは、間違いなく厳しい戦いを強いられるだろう。


「趣味じゃないけど、しょうがないわね」


 物憂げなため息まじりに呟いたヘルミナは、片手に魔力を充填させている。


「ラカ、ご主人さまたちの案内は任せたわよ。私はあのポンコツどもを壊したら後から行くわ」

「……わかった。済まない、ヘルミナ」

「あら、勘違いしないで。私はご主人さまのために戦うだけよ」


 頭を下げるラカに軽い口調で返すと、ヘルミナは思い出したように振り返る。


「そうだ。ご主人さま……?」

「えっ、な、なに?」


 すぐそこまで敵が迫る中、唐突に甘い声で呼びかけられてセレステは戸惑った。

 しかしヘルミナは気にせず、おもむろにセレステの耳元に唇を寄せて吐息とともに囁く。


「あとでご褒美、たくさん下さいね?」


 ゆっくりと離れたヘルミナは、期待するような上目遣いとともに淫靡な笑みを浮かべていた。エロすぎる。というかこれがもうご褒美なんじゃないだろうか。

 あまりの艶にとっさに言葉を失って、セレステはただ何度も頷きながら親指を立てる。

 それを肯定と捉えたのだろうか。満足げに頷くと、ヘルミナは人形の群れへと跳躍した。

 同時に中空へ放った右手の魔力は、跳躍の軌跡の先で黒紫の魔法陣に変化する。しなやかな影は、そのまま開いた陣へと飛び込んだ。

 そして。

 くぐり抜けた刹那、その身体は硬質の鎧へと変貌を遂げている。

 禍々しく鋭利な黒紫の鎧。その手に握るのは、漆黒の長剣。

 ――〈鎧殻招来(アーマライズ)〉である。

 空中で上段に構えた刃には、既に長剣には魔力が込められていた。

 転瞬。落下の勢いまで利用した斬撃が、人形の群れへと叩きつけられる。

 先行していた集団はその一撃で破壊され、あるいは吹き飛び、部品とも言えないほど微塵な破片となって廊下に飛び散った。


「遊んであげるわ、お人形さんたち!」


 振り回される刃は鉄風となって、人形をことごとく千切り飛ばす。

 一体たりともすり抜けることはおろか、近づくことすらできずに彼らは粉砕されていった。

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