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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第三章 魔王城についたら速攻で魔王と謁見する羽目になったし、その上めっちゃ大変なことになっちゃったんですけど
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 揺れはすぐに収まり、取り残されたセレステたちは被害の少ない扉付近に集まっていた。

 オフェリアは暗い表情のまま、落ち着かなげにしている。現状、何もできないのがもどかしいのだろう。

 ラカもまた一人離れた所で、茫然自失の有様で座り込んでしまっていた。


「ヘルミナ、あれは何だったの? キーラはどこに……」

「あれは、魔王城の起動魔術ですわ。正しくは、魔王城のコアを起動する……と言ったほうがいいでしょうか」

「コア?」


 セレステが聞き返すと、ヘルミナは頷いた。


「ええ。魔力の源の巨大な魔石のこと、ですわね。普段は最低限の術式のみを実行するように制限されていて、例えば転送室以外への転送の妨害とか、多分あの機械人形なんかもあれで動かしているはずですわ。そしてその制限を外すのが、先程の術式」


 にやり、と不敵な笑みを浮かべて続ける。


「普段の魔王城がさっきまでの状態だとしたら、起動した魔王城はまさに人間のイメージ通りの「魔王城」っていう感じですわね。実際に百年前――人間と戦争していた時はずっと起動していたはずですし」

「じゃあ、この城はさながら戦時中ってわけね」


 セレステの言葉に、ヘルミナは満足気に頷く。


「さすがご主人さま、その通りですわ。とは言っても、コアの影響は数日中に城の外にも達するはず。そうなってしまえば、問題は城の中にとどまりませんわ。あの起動術式には魔物を凶暴化させる式も含まれてますから、コアの魔力が届いた場所にいる魔物は――」

「お前が闘技場でやったように、暴走するということか」


 魔物という単語にジルが反応する。悪びれなく認めて、ヘルミナは続けた。


「ええ、種類としては一緒だけど……規模と凶暴化の度合いは比べ物にならないわ。それにコア自体にも魔物を生み出す特性があるから、単純な数も増えるでしょうし」


 魔物は、繁殖する他にも魔力によって生み出すことができる。すなわち、強大な供給源さえあれば大量の魔物を生産することも可能だ。ヘルミナの話通りなら、コアとやらは格好の供給源となるだろう。


「それこそ、このまま放置しておけば本当に百年前の状況の再現になるわよ。そうね……ひと月しないうちに、ほぼ間違いなく王国は魔物だらけになるはず」

「…………」


 無言でじとりと見つめるジルに、ヘルミナは小さく笑ってみせた。


「ふふ、そんな目で見ないでよ。もう戦争とかには興味ないから安心して。今はご主人さまのことで頭がいっぱいなんだから」

「……はぁ」


 ジルは「それはそれで面倒くさい」といった風にため息をついた。


「で、そのやばいコアはどうやって止められるの?」

「魔王様を説得して停止術式を展開してもらうか、直接コアを破壊するか、ですわ。ただ――巨大な魔石ですから、壊すなら相当な力がないと難しいでしょうけど」

「なるほどね……どっちにしても難しそうだ。コアの場所は?」

「コアの場所は魔王城の上部、「真の玉座の間」。さっきの転送で玉座もここに行ってるはずですから、魔王様もいるはずですわ」

「案内、お願いできる?」

「ふふ。もちろんですわ、ご主人さま」


 ヘルミナは蠱惑的に微笑み、恭しく礼をする。


「……それなら、私も連れて行って下さい」


 思いつめたような声に、セレステは振り返る。オフェリアだ。

 その瞳には、強い光が宿っていた。決意の輝きだ。


「もちろん――」


 快諾しかけたところで、ジルがくいくい、と何か言いたげに腕を引いてくる。

 促されるままオフェリアに背を向けると、ジルは声を潜めて囁いた。


「セレステ。私達の仕事は王女殿下を救出することです。危険ですし、まずは殿下を王都にお送りしてから、魔王に対処を……」

「キーラに会いに行くまで、わたしは帰りませんよ」

「なっ!?」

「……い、今の聞こえてた?」


 まるで筒抜けていたようなタイミングの良さに、ジルはもちろんセレステも驚いて振り返る。

 オフェリアは、むっとした表情でこちらを見据えていた。


「聞こえてないですけど、なんとなくわかります。たぶん、「私を先に王都に帰して、他の皆さんでキーラをなんとかする」とかその辺りでしょう!」

「いっ、あ、いや、そ、そんなことは、その」


 図星を指されて、ジルは物凄くわかりやすくしどろもどろになっていた。嘘が下手すぎる。

 一方のオフェリアは先程までの様子とは打って変わって、堂々と言い放つ。


「今あの子はひとりぼっちなんです。だから、わたしたちが迎えに行かなくちゃ」


 聞こえたのだろう。ラカがはっとしたようにオフェリアを見た。

 こうなったときオフェリアの頑固さは、既に闘技場で体験済みだ。ジルもそれを思い出したのか、観念したように息を吐く。


「わかりました。私かセレステの後ろから、絶対に離れないで下さい」

「あら、私はのけもの?」


 事態の推移を見ていたヘルミナが、わざとらしく寂しそうな調子で口を挟んできた。

 ジルは一瞬迷い、それから仕方なさげに言い直す。


「……「私達」の後ろから、離れないで下さい。いいですね?」

「はい!」

「待て」


 気合の入ったオフェリアの返事に被さるのは、ラカの声だ。先程の言葉に触発されたのだろうか、翠緑の麗人は凛とした眼差しで告げる。


「……私も行く。いや、一緒に……行かせてくれ」

「ええ、行きましょう! 皆で!」


 誰が答えるより早く、オフェリアが力強く頷く。無論、反対するものはいなかった。

 これでパーティは五人――目標は、玉座の間だ。

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