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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第三章 魔王城についたら速攻で魔王と謁見する羽目になったし、その上めっちゃ大変なことになっちゃったんですけど
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「ど、どういうことですか?」


 やはり構えは解かず、ジルが問う。

 両者の間合いのちょうど中間に立ったまま、オフェリアは続けた。


「あの時わたしは、選抜会場で待ち合わせてた友達を探しにあそこに飛び込んだんです。それで待ち合わせ場所にたどり着いた時、ちょうど瓦礫が崩れてきて……そこで助けてくださったのがラカなんです。私は気を失ってしまいましたが……」

「え……そうなの?」

「しかし……助けるにしても、ここまで連れてくる必要はなかったはずです」


 ジルはかすかに構えを緩めるが、疑念の眼差しはラカを捉えたままだ。

 一方のラカは、腰のサーベルを抜くでもなく、呻くような声で答える。


「それには深い訳……というか、込み入った事情があってだな……」


 難しい顔で息を吐くと、続けた。


「信じられないとは思うが、私はオフェリア様が王女だとは知らなかったんだ」

「どっ、どういう言い訳ですか!」


 語気を荒らげるジルだったが、オフェリアはまるで自分が弁解するように声を挟む。


「本当なんです。話すと長くなるのですが……十年前、叔父様に連れられてこっそり前回の選抜会を見に行った時、迷子になってしまって。そのとき、同じように迷子の女の子を見つけて……手をつないで、一緒にお互いの保護者を探したんです」


 これを聞いて、セレステはナシュハクの言葉を思い出した。そう、「前回の選抜は王弟と一緒にお忍びで見に行った」と言っていた。「途中で迷子になったり色々あった」とも。


「結局、叔父様もその子のお父様もすぐに見つかったんですが……すっかり一緒に冒険したような気持ちになった私達は、気づいたらとても仲良くなっていました。私も、初めて外の友達ができてとっても嬉しかった。だけどその子は「お父様のお仕事の関係で、しばらく王都には来ることができない」って言うんです。それで、この――お揃いの赤い髪飾りをくれました。これを目印に、十年後、次の選抜会で会おうって言って。だから私はあの時、選抜会に絶対に行きたかったんです」


 赤い髪飾りは、今もオフェリアの前髪を彩っている。

 控えめな大きさの宝石で装われたそれは、そういえば初めて出会ったときから印象的だった。


「その話が、なぜ今回の誘拐につながるんですか?」

「ジル、私わかったかもしれない」


 セレステの脳裏に、ある可能性が浮かぶ。


「その、待ち合わせしてた子って……もしかして」


 正解だったらしい。オフェリアは微笑み、頷いた。


「ええ。その子がキーラ……今の魔王、ゼルキーラなんです」

「そ、そうなんですか!?」


 驚くジルに、オフェリアは再びふわりと頷く。


「わたしもここに来るまで知らなかったんですよ? キーラもお忍びでお父様――先代の魔王様と一緒に選抜会を見に来てたらしくって。だからもちろん、あの子もわたしが王女だって知らなかったし……なんだか、可笑しいですよね」


 これまで見た中でも最も少女らしい表情で、オフェリアは明るく笑った。

 つまり、王女同士がそれと知らずに邂逅し、十年後にもう一度あの場所で待ち合わせをしていた――ということになる。オフェリアが選抜会場に向かうことに拘っていた理由は、いわば十年越しに友人と再会するためだったのだ。

 ジルは、驚きと戸惑いの混ざった視線を向けてくる。


「魔王がお忍びで王都に来るものなんですか……?」

「――先王陛下は」


 状況が変わりつつあると見てか、ラカが再び口を開いた。


「……王国との関係修復を望まれていた。本格的に動き出す前に、ご自分の目で見ておきたかったのだろう。同時に、後を継ぐ王太女――今の魔王様にも、人間の国というものをお見せしたかったのだと思う。帰国してすぐ、あのようなことになりさえしなければ……今頃は、国境の戒めも解けていただろう」


 「あのようなこと」が指すものは、セレステにもわかった。おそらく、王都から帰ってすぐに反乱があったのだろう。


「私は魔王様の命を受けて、その髪飾りをした少女――つまり、オフェリア様を迎えにいったのだが……そこで例の騒ぎだ。気を失われたオフェリア様を前にあの場所は危険だと考えた私は、魔王様のところに独断でお連れした。あの騒ぎは、私が王国に向かったと見て反乱軍の残党が動いたものと思ったのだが――」


 そこまで言って、ラカはちらりとヘルミナに視線を向ける。


「だから、私は反乱軍とは関係ないってば」


 うんざりしたような半目を返すヘルミナだが、考えてみればそもそもそういう問題ではない。魔王領と百年以上微妙な状況が続く中で勇者選抜会を襲撃するなど、場合によっては即戦争になってもおかしくない大事件だ。魔王領としても王国としても、ヘルミナは重罪に問うべき存在だろう。

 とは言え、その辺はセレステの興味の範疇ではなかった。それよりもおっぱいが大きくてえっちで超強い美女がパーティに加わるほうが重要である。

 なんとかうやむやにして、ヘルミナは引き続きパーティメンバーに入ってもらおう、とセレステは考えていた。


「……なるほど、状況はよくわかりました。いくつかの行き違いが、この状況の原因というわけですね」


 こっそりと不真面目な思考をしているセレステを尻目に、ジルはついに構えを解き、剣を収めた。だが、なおもジルは硬質な態度を崩すことはない。


「――ですが、だからと言って一国の王女を連れてきていいという道理はありません。即刻、王女殿下のお身柄を引き渡していただきます」


 ラカは頷く。


「ああ、もちろんそうしたいと考えている。本当であれば、すぐにでもお送りせねばならないということは分かっているのだが、なにぶん魔王様が――」

「宰相様」


 金属的な響きを持つ平坦な音声が、ラカの発言を遮る。

 ややあって直線的な動きで入室してきたのは、メイドの姿をした機械人形だった。張り付いたような無表情の顔に血の気はなく、パーツの継ぎ目の線がうっすらと見えている。

 しかし作り物だけに整っているのも確かで、これはこれでなかなかかわいい、とセレステは思った。


「オフェリア様をお連れしろ、と魔王様がご命令です」

「分かっている」


 ラカは短く答えて、手振りで人形を追い払う。すると人形は完璧な角度でかちりと一礼し、素直に踵を返して出ていった。

 その背が見えなくなる前に、ラカは再び続きを話し始める。


「……魔王様が強くお引き止めするので、こちらも勝手にお送りすることはできず……だが、貴方達が来てくれたのは僥倖と言えるかもしれない。迎えが来たと言えば、説得材料にはなるはずだ。だから――」


 そこまで言って、ラカの表情にかすかな影――おそらく逡巡が過ぎった。

 しかしそれは瞬きをすれば見逃しただろうほど殆ど刹那で、次の瞬間には元の冷徹な美貌に戻っている。

 さらに、一呼吸の間を置いて。

 権威を奉じるように、ラカは三人に向かって告げた。


「これから、魔王様に謁見してもらう」

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