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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
プロローグ 勇者候補をボコボコにしたら逮捕されました
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 本来、勇者候補はそれぞれの能力を補い合うようにパーティを組むのが習いである。

 しかしセレステが見せた免状には、本人の他にパーティメンバーの名前はなかった。

 それを確認して、男たちの目が驚愕に見開かれる。


単独候補者(ソリテール)……!?」


 魔術師の男が呆然と口にしたのは、噂でのみ語られる通称だった。

 単独候補者(ソリテール)とは、その名の通り予備選抜を一人で突破した者を指す。

 一般的に最大規定人数――五人でエントリーしてもなお困難とされる予備選抜において、単独候補者の存在は非常に希である。


「や、やべえぞ……逃げたほうが……」

「バ、バカ野郎、俺たちだって勇者候補だぞ! ビビるこたぁねえ」

「でも相手は単独候補者だぞ……!」


 セレステの免状を前に、男たちは明らかに狼狽えだす

 同じく勇者候補であるが故に、彼らもその脅威を正しく理解したようだ。おそらく魔術師の男は、こういう反応をセレステに期待して免状を出したのだろう。


「あっ、焦るな! こっちは数で勝ってるんだ! 行くぞッ!」

「うっ、うおぉぉぉッ!」


 魔術師の叱咤を受けて、一人目の剣士が上段に構えて突進してくる。

 セレステは振り下ろされる刃を戦棍で防ぐと、そのまま跳ね上げた。膂力で負けた男が後ずさるのに乗じて、一気に横殴る。

 男は戦棍の直撃を防ごうと刃を立てるが、十分すぎる威力の一撃は防御の上からでもその身体を容赦なく打ち据えた。大型獣の突進を受けたかのように容易く吹き飛ばされた男は、そのまま路地の壁に激突する。


「がッ!?」


 体中をしたたかに打ち付けた男は、意識を失ってそのまま力なく崩折れた。

 残るは三人。間合いを詰めるセレステに、魔術師が魔力の充填を完了した杖を向ける。


「くそッ、〈火焔弾(ファイアボール)〉!」


 魔力の輝きが術式によって変換され、炎の塊となって杖の先端から放たれた。

 しかしセレステは避けようとせず、迫る紅蓮に戦棍を振りかぶる。瞬間、鎚頭のプレートがぎらりと光った。鋭い煌めきは、これも魔力に由来する燐光だ。


「らあッ!」


 裂帛の気合いとともに、セレステは戦棍を一文字に薙ぐ。刹那、突風が路地を駆け抜けたと思うと、飛来していたはずの〈火焔弾〉は跡形もなくかき消えた。

 〈術式破壊(マジックブレイク)〉。発動した術式自体を、魔力を帯びた直接打撃で破壊する力技だ。


「な……ッ!?」


 声にならない声を尻目に、セレステは再び魔力を戦棍に込める。路地の薄暗い空間を、白銀の魔力光が眩く照らし出した。


「お前、魔術も――」

「『も』、じゃないよ。こっちが本職だからね」


 セレステは充填完了した戦棍をくるりと回すと、路地の奥に目をやった。少女がまだそこにいることを確認すると、次の手を考える。折角だから、なるべく見栄えのするやつにしよう。


「くそ、一気に行くぞ!」


 セレステが魔力を充填したのを見て、二人の前衛は接近戦を選んだようだ。左右から同時に攻めれば、少なくとも片方は間合いに入れると考えたのだろう。そちらに対処している間に、魔術師が準備した強めの術式で攻めきるつもりだろうか。小細工だ。セレステはそれを、作戦ごと粉砕することにした。


「〈衝撃波(ショックウェーブ)〉!」


 術式を展開するとともに、地摺りに構えた戦棍を一気に上に振り上げる。鎚頭から発生した魔力の奔流は、砂埃とともに前衛二人を為す術なく巻き込んだ。

 急角度で吹き飛ばされた二人はそのまま放射線上に宙を舞い、路地の外、大通りに荒々しく落ち転がる。

 遠くて良くは見えないが、あれなら少なくともしばらくは動けないだろう。少女を巻き込まないようにキツめの角度で放ったのは正解だったようだ。

 最後に残った魔術師に目をやれば、こちらは絶望的な表情のまま立ち尽くしている。魔力の充填も忘れて、すっかり戦意を喪失しているようだった。派手な攻撃にしたおかげで、必要以上に怖がってくれたのだろう。思わぬ副産物だ。

 セレステが近づこうとすると、男はがくりとへたり込んだ。逃げる前に腰が抜けてしまったらしい。


「ま、待て、や、やめろ……!」

「やめろだって?」


 魔術師の怯えきった表情を、セレステは睥睨する。


「かわいい女の子を困らせた時点で、お前に命乞いする権利はないよ」


 セレステは顔色を変えずに言い放つと、戦棍を魔術師の足の間、股の近くに振り下ろした。


「ひィッ――――」


 限界だったのだろう。魔術師はその瞬間、白目をむいて気を失ってしまった。股間から広がる水たまりに触れないよう、慌てて戦棍を持ち上げる。


「……ふう」


 セレステは一息つくと、戦棍を回して肩に乗せた。彼らも一応勇者候補のはずだが、やはり予選会場によって質にばらつきでもあるのだろうか。あるいは下級貴族や豪商の子弟で、試験官に賄賂でも渡したのか。こんな連中ばかりが相手なら、本番も楽そうではあるが。


「あ、あの……」


 おずおずとしたその声は、少女のものだった。

 被っていたフードは、先程の〈衝撃波〉で巻き起こした突風のせいで脱げ、素顔が露わになっている。前髪を留めた赤い髪飾りが印象的だが、セレステの感想は非常にシンプルだった。


「――めっちゃかわいい」

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