7
覗き込む黒瞳に、セレステは正直に答えた。
「ちっちゃくて可愛い女の子なんて思うわけないって言ったの! 黒髪ロングに白ワンピースのあざとすぎる美少女なんてどう考えても200歳超えの老魔術師とは思わないし、なによりめっちゃいい匂いしそうだし! つか実際したし! ジルもそう思うでしょ?」
「た、確かにいい匂いではありますが……って、そうじゃなくて! セレステ、早く謝ったほうが……」
急に振られたせいで答えてしまうものの、慌ててジルはセレステに促す。
見れば、ティオは何も言わずにむすっとした顔でじっとこちらを見つめていた。
その視線に耐えきれず、セレステは引き続き言い訳のようにティオの見た目についての感想を並べ立てる。
「あ、いや、その、ちっちゃくて可愛いというのは他意があるわけじゃなくて、本当に見たままロリっとしてるのに喋り方は古風でそのミスマッチが絶妙と言うか、膝の上にのせてなでなでしたくなる感じというか興奮するというか、全部のパーツが細くてお肌も真っ白ですべすべしてそうだしとりあえずお友達から初めて徐々に仲良くなっていきたい正統派美少女っていうか――」
「セレステ!!」
徐々に弁解から脱線していくセレステを、ジルはさらに慌てて止めた。
大魔術師を怒らせたらどうなるかわかったものではないし、何より王女につながる唯一の手がかりとも言える彼女の気分を害してしまえば非常に面倒なことになるのは明確である。
しかし止めるのが遅かったのだろう、ティオはセレステに無言でにじり寄る。
思わず後ずさるセレステだが、テーブルに当たってこれ以上後ろには下がれない。
一歩、また一歩、そしてついに触れるほどまで近づいて、ティオは問うた。
「わしが、いい匂いじゃと?」
「……う、うん」
頷くセレステに、重ねて問う。
「わしがかわいい、じゃと?」
「うん!」
再び頷くセレステに、ティオは身を乗り出して問う。
「わしが大陸一のロリコン殺しの完璧最強美少女じゃと!?」
「うん!!」
これは言っていないが、セレステは力強く頷いた。
その矛先は、推移を唖然と見ていた相棒にも向く。
「お主もそう思うか!?」
「は、はい!」
急に問われ、ジルは慌てて頷いた。
ティオは無言のまま少し離れ、二人を交互にじっと見つめる。
不安げな視線をジルが送ってくるが、セレステは何も言わずに次の動きを待った。
数秒の後、ティオはぼそりと呟く。
「……じゃろう」
「……え?」
聞き返すセレステに、突然ティオは飛びかかった。
「――そうじゃろう! そうじゃろうとも! ふははは!」
「うわっ!? え!? なに!? ご褒美!? なんで!?」
混乱しつつも、セレステは軽い身体をとっさに受け止める。
攻撃というわけではないようで、ティオは離れると今度はジルに抱きついた。
「えっ!? な、な……っ!?」
「ふはーっはっはっはーっ! かわいいじゃろう! かわいいじゃろう! わかるか、お主らもこのぼでぃの良さがわかるか! ふははははは!」
「ど、どういうことですか……!?」
唖然としたジルは、助けを求めるようにセレステを見る。しかしセレステすらこの状況は理解が及んでいなかった。
確かなのは、やはり予想通りとてもいい匂いだったということぐらいだ。抱きつかれた時にふわりと漂ってきた花の匂いが、残り香となってセレステの周りを漂っていた。
ひとしきりはしゃいでから、ティオはようやく離れる。その顔には会心の笑みが浮かんでいた。
「いやはや、ろりこんの同志とこのような所で出会えるとは全く思っておらなかったぞ! にゅふふふ……」
「え、あ……わ、私はそういうのでは……」
「……なんじゃ、お主は違うのか?」
じとりと睨まれ、一旦否定しかけたジルは慌てて首を振る。
「あっ、いや、違わないです! 小さい子好きです!」
「そうじゃろう! ふははは!」
満足したらしいティオは、再び腰に両手を当てて胸を反らす。なだらかな胸元から腹部にかけて、すとんと落ちたワンピースがいかにも少女らしい。
「改めて、このわしが〈天眼の〉ティオ・ラヴァナンじゃ! 久しぶりの客人よ、心から歓迎するぞ!」
得意げな顔のティオをきらきらした目で見つめながら、セレステは感嘆のため息を漏らした。
「すごい……マジで本物ののじゃロリだ……初めて見た……!」
「ふははは! のじゃロリじゃとも!」
「な、なぜ……てっきり、もう少しその……違うお姿かと」
ジルの問いに、ティオは不敵な調子で返答する。
「なぜじゃと? 愚問! それは勿論、小さくてかわいい女の子が好きだからじゃ。だからこのように、まずは自分が小さくてかわいい姿のままでいられるように全力を尽くして魔術を研究したというわけじゃな! かかか!」
「さすが大魔術師……! お見事なご成果、しかとこの目に焼き付けさせていただきます……!」
「おお? もっと見てもいいんじゃぞ? ふはは!」
「うおおお! ワンピースひらひらしてる! それとてもいいよ! もっとちょうだい!」
「もっとじゃと? ぬふふ、欲しがりさんじゃな! ほれほれー!」
セレステの歓声を受け、ティオはくるくると回って見せる。
しばらくその調子で盛り上がり続けるであろう二人を見て、ジルは内心呟いた。
――魔術師ってこんなやつしかいないのか、と。