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３

　風呂に向かうジルを見送りながら、セレステはふと思った。

　――失敗した。終わるまで待つか、むしろ隣で一緒に素振りでもして一緒に汗をかいておけばよかった。そうすれば、スムーズな流れで一緒に入れたじゃないか。

　もちろん、セレステは宿についてすぐジルを風呂に誘っていた。しかし「その前に鍛錬をしたいから」ときっぱりと断られていたのだ。

　実際その通りだったわけだが、なぜもう少し知恵を働かせなかったのか。

　セレステは悔やみつつ、なんとか別の方法を考えようとした。

　まさに今出たばかりだから、偶然を装って向かうのはあまりにも不自然すぎる。

　背中を流す……というほど仲良くはないだろう。残念ながら。

　ではどうするか――いや、待てよ。

　そもそも、一緒に入らなくてもいいんじゃないか？

　つまり、一緒に入っても触れないのであれば、主な目的は「見ること」になる。

　それなら、やることは一つ――そう、覗くしかない。

　まさに今追いかければ、こっそり覗けるのではないだろうか。

　そう考えたセレステは一旦部屋に戻り、別のルートで浴場へと向かう。

　外から覗くなどということをせずとも、脱衣場からこっそり見ればいい。

　などと思いながら脱衣場へ静かに忍び込むと――果たして、そこにはきれいに畳まれたジルの服のみが置かれていた。運のいいことに、他の客は来ていないらしい。

　扉一枚隔てた浴場から聞こえるのは、湯を流す音だ。今まさに身体を流しているのだろう。

　であれば、タイミングは今をおいて他にない。

　全神経を集中させ、セレステは音一つ立てずに入り口へと向かう。

　そして、引き戸をゆっくりと開け――

　――すたぁんっ！

「……へぁ？」

　前の間で突然勢い良く開いた扉に、セレステは間抜けな声を上げた。

　ゆっくりと見上げると、そこにはジルが仁王立ちしている。

　無論、一糸まとわぬ姿で。

「……何をしているんですか。勇者様？」

　恐ろしいまでにのっぺりとした、感情のこもらない問いかけだった。

　せっかくの状況だが、これではまともに直視する気になどなれるはずもない。

　セレステはやっとのことで引きつる笑顔を浮かべ、苦し紛れの言い訳を引っ張り出す。

「は、入ろうかなーって思って。お風呂」

「さっき入ったばっかりですよね？」

　間髪入れない追求に血の気が引くが、なんとか口だけは動かした。この場合、黙ったら多分終わりだ。

「いや、ほら、お風呂好きだからさ……い、一応私も、おっ、乙女だし？」

「なるほど」

　無表情のまま、ジルは微かに頷く。

　セレステはわかってくれたのかと安堵しかけるが、甘かった。

「……じゃあ好きなだけ堪能してください！」

　すごい力で腕と首を掴まれると、そのまま広い浴槽に投げ飛ばされる。

　怒りという感情は、こんなにも人を強くさせるものなのだ――と、どこかしみじみと考えながらセレステは湯の中に墜落した。