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短編集 リヨンの記録

茶番劇

作者: 紅白

 無視に始まり、水かけ、物隠し、暴言、罵倒、殴打、その他諸々、主たるものから細たるものまで何でもやられた。地に膝をつくのは孤児の少女、黒の長髪を土に投げる。高らかに見下ろすのは魔道具大店の娘、金糸の髪を風の輪舞に遊ばせる。

 打ち付ける雨。打ちひしがれる少女。半年見続けたその光景を後ろに残し、大店の娘は今日も踵を返す。そこに、不気味な笑い声が薄ら広がっていく。娘が振り返れば、少女が不敵に笑っている。その綺麗な形の唇が動いた。ねえ、新しいパパが決まったの。リヨン県華族筆頭シャウレリ侯爵様よ。

 何かを察して、大店の娘が一歩後ずさる。孤児でなくなった少女が、ゆうらりと立ち上がり、嘲りの音を隠さずに言う。昨日、今まで貴女から受けた恥辱と屈辱と苦痛の全てを話したわ。お父様は一言こう仰った。許さない、と。

 大店の娘の顔が引きつる。大店の娘が何かを叫ぶ。大店の娘が狂乱に落ちる。侯爵令嬢が高らかに笑う。


 ―― さ よ う な ら 。




 ああ、快感。

 その心地よさに震えが止まらない黒髪の少女に、女中服を着た女性が路地裏で声をかけた。

「お嬢様、いい加減にして下さい。孤児だの侯爵令嬢だの嘘八百を並べて、いじめっ子をいじめるなんて」

 その言葉も、黒髪の少女の耳には入っていない。女中の小さな主は、ただただ悦に入っている。これを得るために、小さな主はいじめっ子のいる学校に転校を繰り返し、標的を自分に移し、仕返しをする。いささか悪癖の度が過ぎるが、彼女のいじめへの仕返しのえげつなさに、彼女が止めた蛮行以外の虐待も一時的に止まるのが常であった。故に、女中は未だに主の趣向を止められないでいる。




 ああ、快感。

 その心地よさに震えが止まらない金髪の娘に、女中服を着た女性が路地裏で声をかけた。

「お嬢様、いい加減にしてください。その超弩級の変装魔法を使って、あの黒髪の少女の標的になり続けるなんて」

 その言葉も、金髪の少女の耳には入っていない。女中の小さな主は、ただただ悦に入っている。これを得るために、小さな主は姿形を変え、興味もないいじめに興じ、黒髪の少女とその侮蔑の目を待つ。いささか悪癖の度が過ぎるが、黒髪の少女を待つ間のいじめは、教師も気づかぬ水底に潜在するものの筆頭者に対して行われるのが常であった。故に、女中は未だに主の趣向を止められないでいる。




 別の路地裏で二人の少女が、腕を抱えて震えて笑う。

「「さあ、次はどこで出会えるかしら」」

『で、お嬢様はまた転校ですか、婦長様』

『ええ』

『手続きホント面倒なんですけど。今度こそ婦長様ご自身で――…』

『頼むわね』

『……もう県内に残ってる高校なんてまともなトコないですよ。あと、手続きの慰労報酬として、午後に休暇いただきますから』

『はいはい』

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