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天才王女は民から心配されます

 共和国との戦争で頑張ってくれた北方警備隊が王都へ帰ってきてから数日後、私は彼らを全員王宮へ呼んで食事会を開いていました。


 ……おかげで、私自身の財産もほぼ底をついてしまいましたが。でも信賞必罰は政治の基本ですからね。命を賭して奮戦してくれた兵たちに、『ありがとう』と伝えないトップに付いて行こうと思う家臣はいないでしょう。



「今日は、疲れている中集まってくれてありがとう。みんな、存分に飲み食いして頂戴!」


「もったいなきお言葉、感謝いたします」


「さすが姫さん、太っ腹!」


「褒章も嬉しいが、こういった目に見える褒美も嬉しいな……!」



 私が簡単に開式の音頭を取ると、皆口々に感謝の言葉を述べながら料理へと向かっていきます。今日はあらかじめドレスコード無し、堅苦しい挨拶無しのラフな食事会だと伝えていたので、みんなの口調も自然と砕けたものになっていました。



「ドランさん、一番難しいところを任せたのに予想以上の大活躍だったそうじゃない? 本当にすごいと思うわ」



 グラスを片手にドランさんの元へ歩み寄ると、彼は一礼して応じます。彼には再三再四、ドレスコードは無しと伝えたにもかかわらず、これが自分の私服だと言い張って今もきっちり軍服を着込んでいます。


 その隣にはゆったりとしたドレスに身を包んだサラさんが寄り添っており、娘のノルンちゃんは隣のテーブルで肉料理に手を付けていました。



「いえ、姫殿下のご指示があればこその戦果でございます。それに、真に賞賛されるべきは忠実に動いてくれた兵たちなのです」


「それはもちろん理解しているけれど、それも含めて貴方を『すごい』と評したのよ? でも、本当に兵のみんなは良く頑張ってくれたと思うわ……本当に、ありがとう」



 彼らがいなければ、今こうして王国が残っているかどうかすら怪しかったのです。突然の侵攻にいち早く対応してくれた北方警備隊には、感謝してもしきれません。


 本当に、彼らの働きには万の言葉を弄してもなお足りないでしょうね。



「ま、俺たちだって住む場所がなくなるのは困りますし。なあ?」


「そうですね。それに、姫殿下や国王陛下の治世には我々も救われているのです。なればそれに応えるのが、誇り高き王国兵士というもの」


「ですから姫殿下は、後方で神懸った指示を飛ばしてくれるだけでいいんですぜ? あとは俺たちが、どんな敵でもぶっ飛ばしてやりまさぁ」



 そんなことを考える私に、兵たちは軽口を交えながら答えます。いつもは厳しいと評判のドランも、今ばかりは苦笑しながら彼らを見つめています。



「そう……ありがとう。みんな、今日はゆっくりしていってね!」



 それからテーブルを回っては報告を受けつつ、感謝の言葉を伝えていきます。


 すべてのテーブルを一通り回り、食事会もたけなわという段になって、大広間の中央近くのテーブルで怒声が響き渡りました。



「貴様、それは言ってはならん事であろう! 王族の方々に失礼だとは思わんのか!」



 遠目なのではっきりとしたことは分かりませんが、どうやら上官が部下に対して怒鳴っているようです。何か粗相があったのなら仕方ないと思いますが、将官の口から出た『王族』という言葉が少し気になります。



「し、しかし……! 我々がこうして楽しむことで、王女殿下や国王陛下がお困りになるのは違うと……!」


「失礼、何があったの? 宴会の場で叱責なんて、ずいぶん穏やかではないわね」



 人の間を縫うように駆け寄った私に、怒鳴っていた将官はさっと頭を下げます。



「王女殿下、お騒がせして申し訳ありません! こいつが食事に手を付けないもので、理由を問い詰めれば『王国が財政難の時に自分だけ食事はとれない』と申しまして……」



 彼の言葉に、慌ててテーブルの上に目を向けると確かに、若い兵の皿は並べられた時と同じまま置かれていました。


 つまり、ここでお金を使うぐらいなら別のところで使って欲しいということが兵の言いたいことなのでしょう。財政難の話が兵にまで届いているとは思っていませんでしたが、ウチがもともと裕福な国でないことは皆知っていますからね。彼の心配は、当然のことと言えるでしょう。



「そうね……心配をかけたようで、まずは謝るわ。民に心配をさせるようでは、私がお父様の跡を継ぐのは当分先の話になってしまうわね。

 その上で言うのだけど、このパーティーに王国のお金は一切使っていないから安心して頂戴。ここで使ったのは、私個人の財産。忘れた? 私は王女であるとともに、一人の商人なのよ?」


「す、すげえ……さすがはシャルロット商会の会長さんだ……」


「そういうわけだから、心配しなくて大丈夫。私は皆に気持ちよくご飯を食べてほしいの。

 さあ、お話は終わりよ。貴方も、遠慮せずに食べてね!」

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