総攻撃、そして終結
「なるほど、王女殿下の作戦はこういうことか……前にお会いした時にうすうす気付いていたが、あの御方もまた容赦のないことをなさる。
ケーネさんからも命令のあったことだし、俺らも日の出前には出陣するぞ」
ケーネから手渡された作戦書に目を通した若い士官———リックは、指令書を片手に地図を指さします。
彼はエレナが軍部に顔を出した際、突っかかって逆にやり込められた若い士官でした。今回は彼が掃討隊の司令官に任命されています。
それというのも、今回の作戦でメインとなる騎兵隊は、王国軍の中でも若い兵たちで固められた部隊だからです。年齢が近い方が、兵の心を掴みやすいだろうというレーナの進言によって彼が司令官に据えられたのです。
「工兵はまず先行して投石機の設置を急げ。谷を抜けてきた連中に、開幕早々ブチかますだけでいいから、一射したらすぐに本隊と合流しろ。
俺ら騎兵隊は工兵の撤退後、谷へと突撃する。何としても、共和国軍を渓谷から出さねえようにしろ。敵さんが平野部に出てきたら負けと思えよ?」
「ま、それができるのもドラン将軍のおかげっすよね。俺、最初はあの爺さんを胡散臭く思ってたんすけど、結構なやり手じゃないですか」
「まあ、な。そもそもあのレーナ様と、その娘さんである王女殿下が見込んだ男だからなあ……三分の一の兵力で敵の侵攻を食い止めるって聞いた時には正気を疑ったが、どうして上手くいってるみたいだしな」
年配の将官が聞けば激怒しそうな口調ですが、リックの部隊は総じてこういったフランクな雰囲気になりやすいのが特徴です。かつては上官によく叱られたリックも、レーナがその統率力を見込んで士官へと引き上げたのでした。
「んじゃ、もうそろそろ出陣するか。上手くいけば明日の夜には祝杯だ。総員、生きて帰れ!」
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「全軍、突撃ー!」
「今日こそ何としてでも目障りな渓谷を突破するのだ!」
「「せえええええい!」」
地平線から太陽が顔を出したのを合図に、共和国軍が全軍でもって渓谷の攻略に動き始めます。
圧倒的な兵力にモノを言わせてひたすら前線を上げる戦術は、兵力が互角ならまだしも今の王国軍にとっては最悪の方法です。いくら有利な地形とはいえ、さしもの王国兵にも被害が出始めます。
これ以上は食い止めれないと、王国軍の本隊は砲台を放棄してさらに谷上へと兵を退けて応戦します。
今までさんざん辛酸を嘗めさせられてきた共和国軍にとって、敵軍の後退は開戦から初の手ごたえです。全軍に安堵と勢いが広がり、一気に渓谷へ兵が流れ込みます。
———そして、その直後。まさに共和国の本隊が渓谷内に差し掛かった瞬間。
そり立つ岩壁が轟音を立てて崩壊し、大量の土砂と共に共和国軍の頭上に降り注いだのでした。
「さあ、こちらも突撃だ! 敵軍の粗方は今の崩落で死んだだろうが、まだ動ける者もいるはずだ。偉そうな服を着ている奴は生け捕りに、突破されたら厄介そうな武人は囲んで殲滅しろ!」
リックの号令と共に、渓谷の先で待機していた騎兵隊が突撃します。猛然と駆け抜ける騎馬が倒れていた敵兵を蹴散らし、数少ない動ける兵は馬上の王国兵が討ち取っていきます。
たまらず後退する共和国兵。しかしその先には谷をぐるりと迂回して後方から進軍してきた王国の本隊が待ち構えていました。
総攻撃が開始されてから、僅か一時間。まだ早朝と呼ぶに相応しい時間帯に、渓谷を文字通り血の海に変え、共和国の総司令官が白旗を上げて投降したことで戦争は終結しました。
有史以来、最も短時間で勝敗が決したと評されるこの戦いは、王国軍の圧勝で幕を閉じたのでした。
昨日、シュレディンガーの猫さんから感想を頂きました。Thank you for impression!
そして、長かった(?)共和国との戦いも今話で終幕です。今後は戦後処理に戦時賠償などの外交が待っているわけですね。エレナが過労死してしまわないかが心配なところですが、まあ何とかなるでしょう(ブラック体質)
あと、超絶遅刻をかましたポンコツ作者から告知でございます。
以前ご指摘いただいた人物紹介なのですが、残りの分を7月15日(月)の更新分で投稿したいと考えております。と言いますのも、月曜日は諸事情により執筆時間が取れない公算が非常に高いのです。ですのでこの機会に更新分に乗せてしまおうかしら……と悪だくみをした次第です。
もちろん読者の皆様に『じゃあ月曜日は読まなくていいじゃん』と見放されないよう、少しながら番外編的なショートストーリーも更新分に掲載しようと考えています。
以上、頂いた感想への心からの感謝と、遅刻系筆者からの告知でございました。
これからもよろしくお願いします!




