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お嬢様は孤児院を訪れます

 ある程度予想はしていたけれど、まさかここまでとはね……


 アルカルトが私の仕事を手伝い始めてから、一気に仕事が片付くようになりました。

 今までなら次の日に繰り越す書類整理などがあったのに、今では夕刻までには仕事が片付くようになってしまいました。


 理由は簡単で、要は向き不向きの問題。


 ケーネは情報を処理する能力に長け、私は情報から物事を推察する能力に定評があり、ミリダは情報を収集する能力に天賦の才があることは分かっていました。

 ですがそれぞれの長所を生かそうにも、あまりに人員が足りないために各々が苦手な分野を担当することがしばしばあり、結果として作業効率が下がってしまっていたのです。

 そんな時に万能型のアルカルトが来てくれたので、穴埋め的に足りない部分を補ってくれたのです。


 そりゃあ各国の権力者たちが、カリル民族を血眼になって探すわけです。ここまで有能な側近がいれば、よほどトップが愚鈍でない限り国は発展するでしょうね。

 アルカルトが連れてきた他のカリル人ともお話ししましたが、老若男女問わず知識欲に目を光らせ、私よりも幼い子供でもその見識の深さに驚かされました。


 

 まあ、そんなわけで今日は仕事が粗方片付いたので、街に出ようと思います。


 今日も護衛はお母様、ケーネ、ミリダの三人。付き添いでアルカルトが付いてくるそうです。お母様は例のごとく宮中の侍女から借りた粗末な服を纏い、私は質素な麻のワンピース。定番化しつつありますね。



「お母様、それではよろしくお願いします」


「ええ、今回も楽しみましょう!」



 メインストリートに出れば、今日も大勢の人がにぎやかに行き来しています。今日は祭日ということもあって店には溢れんばかりの商品が並び、それらを求めていつも以上にたくさんの人が出歩いているように感じられます。



「お母様、今日は何本か奥に入った路地を見てみたいですわ。構いませんか?」


「うーん……まあ、これだけ護衛がいれば問題ないか……

 いいわ、行きましょう。けれど、私から離れないでね」



 お母様の許可も出たところで、私たちは狭い路地に入っていきます。大きく開けた表通りとは異なり、乱雑に立ち並ぶ建物が陽の光を遮る裏路地は暗く、どこか危険な香りがします。

 道行く人の格好も次第に粗末になり、私たちの服装が次第に異質になっていきます。



「お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい? 悪いことは言わねえから、来た道を引き返した方がいいぜ」


「あら失礼。でも私たちはこの先の孤児院を目指しているの。そこを退いてもらえるかしら?」


「あ? 親切心は素直に受け取るべき……」



 なおも突っかかろうとした男が、お母様の視線に射すくめられて言葉を濁します。腕に覚えのある者ほど、お母様の只ならぬ気配には敏感ですからね。


 道の端にすごすごと引き下がった男に会釈しつつ、私は歩を進めます。お母様の仰った通り、今日は路地裏の孤児院に用があって来ているのです。



「お久しぶり、シスター。お元気かしら?」


「これはエレナ様、お久しぶりです! ささ、お茶でもお飲みになってくださいな」



 教会の入り口で子供たちと話していた女性が、私の声にパッと顔を上げます。ところどころ繕った跡のある修道服に、柔らかい笑み。ここで孤児たちを育てている、シスターさんです。

 以前、リダを拾った時にシスターさんと出会い、それからはしばしば手紙のやり取りをする仲になっていたのでした。



「今日は如何なご用向きで? 最近のエレナ様はお忙しいと市井では噂されておりますが……」


「忙しいわよ? けれどやっと街に出ることが出来たから、久々に貴女に会いたくなって来たの。迷惑じゃなかった?」


「それはもちろん! 子供たちも喜んでおりますし!」



 私たちとシスターの足元には子供たちがわらわらと集まり、やんちゃな男の子はケーネによじ登ろうとしています。アルカルトは初めてなので子供たちの襲撃を受けていませんが、何人かの男の子が興味津々の目線を彼に向けています。


 私は足元の女の子を抱き上げると、シスターに向き直りました。



「やっと学校を設立できたけれど、子供たちはちゃんと通ってくれているかしら?」


「ええ、ここにいる子供はみんな通っておりますよ。今日は祭日だったのですが、学校の方が快適だからと登校しようとする子もいたぐらいで」


「まあ、それは嬉しい限りだわ! では、休みの日も解放できる自習室のようなものがあった方がいいかしらね……みんなはどう?」


「行きたいぞー!」


「こら、敬語を使わなくっちゃ! あの、私もあればいいなって……」


「食堂もあればいいぞー!」


「敬語っ! エレナ様、本当に申し訳ありません!」


「ふふ、元気なのはいいことよ。アルカルトとケーネ、食堂と自習室の件を学校側に打診してみてくれる?」


「了解した。王宮に帰ったら相談しておく」



 慌てて謝る女の子の頭を撫でつつ、ケーネとアルカルトに指示を出します。二人に指示を出しておけば、おそらく自習室も食堂も実現するでしょう。



「さあ、お仕事のお話はここまで。みんな、何をして遊びましょうか?」



 子供たちの歓声を聞きつつ、私たちは教会の奥へ向かうのでした。

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