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とある移民の目的地

 やっとナンコーク王国にたどり着きました。


 周囲を山脈に囲まれた王国への旅路は険しく、さらに今の時期は荒野を強く吹き抜ける寒風が旅行者の足を重くすることで有名でした。


 しかし近年、王国への主要な街道は全て整備が進み、要所には王国の詰所が設置されたため安全で快適な旅が可能となりました。だからこそ、僕は王国を目指して旅をすることを決めたのですが。


 王国の国境付近までやってくると、そこには長蛇の列が。一時入国者のための関所には商人と思しき人々が並び、移住希望者のための関所には多種多様な国の人が整列しています。普通なら関所付近はもっと猥雑で、これだけ人が集まれば暴動の一つや二つ起こりそうなものですが、ここではみんな礼儀よく並んでいます。



「すごい人ですね。移住希望ですか?」



 とりあえず、並んでいる家族連れに話しかけてみます。風体からして、帝国の四人家族と言ったところでしょうか。



「ええ。人数は凄くても、じきに人が捌けますから。ほら、こんな感じで」



 父親と思しき男が応えた瞬間、列がゆっくりと前進します。なるほど、この速度ならさほど待つことなく王国に入れるというわけですか。道理で列から不満が出てこないわけです。


 自分も一時入国者の列に並び、程なくして関所にたどり着きました。必要書類にサインをして通行証を受け取り、そのまま王国の中へ。荷物を適当な宿に置くと、そのまま街中を散策します。


 街路はどこも美しく整備され、整然と区画され、人々が談笑しながら歩いています。ここが王都なら当たり前の光景なのですが、関所に近いとはいえ辺境の地でこの活気とは恐れ入ります。数々の国を巡ってきた僕でも、ここまで栄えた国は見たことがありません。



「これほどの治世を一体だれが……さぞ、経験を積まれた賢君に違いない」


「兄ちゃん、旅人か? ここを治めてらっしゃるのは、エレナ姫とトラン国王だぞ?」



 適当に入った店で独り言を漏らしていると、店主がにこやかに話しかけてきました。手には先ほど注文した料理を抱えており、どうやら給仕に来たようでした。



「エレナ姫? 寡聞にして存じ上げないが、姫というからにはお若いのか?」


「確か今年で17歳になられたはずだぜ。若くて綺麗で優しくて、天が二物も三物も与えた御方なんだ。今の国王様も素晴らしいお方だが、姫さんの方はさらにスゲエんだ」



 なんと、17歳とは! 


 普通、人間性や考え方がある程度成熟してから『良い治世』を行うことが出来るのです。もし店主の言っていることが本当なら、エレナ姫はその若さですでに『王の器』たるということになります。



「具体的に、エレナ姫は何をなさったんだ? 良ければ教えてくれないか?」


「そりゃあ、まずは壊血病の撲滅だよな。あの御方、自分で薬を創って平民にタダ同然でばら撒いたんだ。俺も最初は毒でも入ってんのかと疑ったが、娘の調子がそれで良くなったからなあ……目の前でそんなもん見せられたら、信じるしかなくなるわな」


「あと、街路の整備に学校の設立だよな! ウチの息子も学校に通ってるが、まるで王宮みたいに整った環境で勉強してんだぜ? 他の国から来た兄ちゃんには信じられねえだろ」


「最近じゃ、北西部に移民居住地区が出来てな。新しい文化に見たことねえ物品が山ほど湧いてくるから、毎日が楽しいんだ!」



 口々に語られる、為政者への賞賛。どちらかを立てればどちらかが損をするというのが普通の執政ですが、飯屋の店主から左官屋の主人、果ては商会の旦那と思しき人までにこやかに褒め称えます。


 民にそこまで言わしめるエレナ姫、どんな人物なのでしょうか?



「なあ、そのエレナ姫にお会いできる機会ってないのか? いや、難しいことは承知しているのだが……」


「ねえな。そもそもあの御方は王族だし、俺たちのために毎日激務と聞く。そんな御方が、何のアポもなく会ってくださるわけないだろ」


「確かにな。いや、色々とありがとう。これはほんの気持ちだ」



 料理の代金に少し上乗せし、店主に渡します。


 料理も新鮮な野菜と魚介類をふんだんに使った王国の郷土料理で、大変美味です。


 さあ、エレナ姫にどうやってお会いしましょうか。

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