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とある新入生から見た入学式

 まだ朝の八時だというのに、真新しい校舎には多くの人間が集まっていた。外はあれだけ寒かったというのに、校舎に入れば人の熱気と暖房で軽く汗ばむほどだ。


 入学式が始まる講堂には、商人や農民、地方の有力者から果てはスラム街の代表者まで集まっていた。年齢もバラバラで、初等部の新入生———つまり六歳の子供から杖を持った老人まで押しかけている。


 入学式の定刻が近づくと、いよいよ講堂に入りきらなくなった人々が立ち見や扉の向こうから覗き込むようになりました。自分は新入生なので講堂の前半分に用意された椅子に座っていますが、これほど大きな空間を埋め尽くすほどの人が放つ圧は相当なものです。


 それもこれも、王女様が平民向けの学校を作ったからです。初めは渋っていた両親も、校舎がどんどん完成に近づくうちに興味を持ち始め、入学金から教材費、授業料に至るまですべてが無償と知るとすぐさま僕を入学させるために奔走し始めました。

 正直、今でも信じられない気持ちの方が大きいのです。貴族、それもその頂点に立つ王族のお姫様が、自分たち平民たちのために何の見返りもなく、私財を投げ打つのか疑問が深まるばかりです。


 そんなことを考えていると、演壇の上に教員たちが。続いて学園の理事長であるアンネ様、そして最後にエレナ王女様が現れました。全員が演壇上で一礼をすると、進行役の声に従って式が始まりました。


 開式の宣言に続いて校歌の斉唱。あらかじめ配られていた歌詞と響く旋律を追いかけながら、必死に歌を紡ぐ。

 歌い終わり、新入生が席に着いたところで理事長の演説です。真っ青なドレスを身に纏った赤毛の少女が、マイクを持って席を立ちました。



「どうも、理事長のアンネです。今日は皆さん集まってくれてありがとう。長々と喋るのは嫌いだから、単刀直入に言うわね」



 微笑みを浮かべつつ、ゆっくりと口を開く。しかしその目は挑戦的に、あるいは挑発的に輝いて僕たち新入生を放しません。



「新入生の皆さん、勉強なさい。知識は貴方たちの盾となり、鉾となるはずよ。みんなも私の出自は知っていると思うけれど、それでも私はこうして演壇に立てるだけの実績と地位を積み上げたわ。

 現状に満足せず、身の程を弁えない愚か者がここにいるのなら、ぜひ勉強なさい」



 苛烈にして過激。しかし、それが許されるだけの才能と努力を、アンネ様は重ねてあの場に立っているのです。


 会場全体が水を打ったように静まり返る中、代わりに純白のドレスを纏った少女が立ちました。



「えっと、王女のエレナです。アンネの後で何を言っても印象に残らないかもしれませんが、皆さん聞いてくれると助かります」


 

 鈴を転がしたような声に、洗練された所作。改めてこの国の王女様なのだと実感させられるとともに、絵画のように美しい彼女から目が離せない。



「この国には資源がありません。国内で消費される鉱物資源の八割以上を国外からの輸入に頼り、また皆さんも知っての通り農耕にも向かない土地のため食料資源も常に不足しています。

 次に、この国には海がありません。海があれば海産物が獲れ、また他国との交易も船舶で行えるというのにそれもできない。まさに八方塞がりよね」



 思わず反論しようとして、しかし出かかった声が喉の奥で固まります。反論する術を僕は知らず、また王女の言うことは全て事実だからです。



「そんな絶望的な状況で、王国に残されたものは何だと思う?

 それは貴方たち、国民よ。アンネの話でもあったけれど、知識は武器になるわ。愚鈍な万の兵よりも、考える素地を持った百の民の方がずっと強いのよ。戦いとは、兵を突き合わせてするだけではないもの。どんな最新鋭の兵器を揃えたって、戦争が起きなければ意味はないの。

 だから私は、あえてアンネと同じ言葉を贈るわ。勉強なさい。知識を得て、自分たちの住む場所を守ることに使ってくれることこそが、この学園を設立した意味であり、私が学園に込めた願いです。私ひとりじゃ、この国は守れない。だから、貴方たちの力を借りたいの。期待しているわよ?」



 パチパチ、とどこかで聞こえた気がした。徐々にその波が広がり、会場の内外から拍手の音が鳴り響きます。


 誰よりも王国の現状を知る王女様が、それでもなお王国に絶望せず、誰よりも意地汚く足掻こうというのなら。

 その野望に、僕たちの力を期待しているのなら。


……その期待に、応えたい。本気で、心の底からそう思わされた。

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