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天才王女は守りを固めます

 ふう、これで私にできることはとりあえずしたわね。


 商人たちから情報をかき集めてもよかったけれど、やはり身近な人物の持つ情報には敵わない。その上、ドラン将軍は大臣に妻子を人質に取られ、二人を救い出したとしても帝国内に居場所がないのは必定。

 

 そこで、わたしは国境兵と王宮警備兵にわざと三人を見逃すように伝え、ここまですんなりこれるようにしたのよ。そうしなければ、今頃三人は国境沿いで追手と国境兵に挟まれて死んでいたでしょうね。


 私は手元の書類にサインをすると、持っていたペンをそっと置きました。


 書類の内容は、学校設立に伴う教員の募集要項の草案。学校を作っても教える人がいないのでは、何の意味もないからね。みんなの協力で学校設立がどんどん早まりつつある今、教員の募集は急務です。

 

 椅子に姿勢を崩してもたれかかり、しばし天井を向いて背中を伸ばす。



「……ねえ、ケーネ」



 執務室の机で書類仕事を手伝ってくれていたケーネが、作業の手を止めたのを見計らって声を掛けます。



「ん、どうした?」


「昨日渡した新兵器の案、もう目を通してくれたでしょう? あれ、貴方の目から見てどう思う?」



 私の言葉に、ケーネは一瞬言葉を詰まらせます。わざわざ一呼吸ついて、ゆっくりと口を開きました。



「……正直、戦慄したよ。あんなもんが実用化され、仮に自分たちへ打ち込まれると考えたら恐ろしくて戦争なんてできねえな……」



 ケーネにここまで言わせる兵器、それは私が考え出した新たな『対軍兵器』。


 王国をぐるりと囲む山脈の中腹に砲台をいくつも設置し、平野部を進軍してくる敵兵の群れに対して打ち込もうという計画。周囲を山に囲まれている王国だけができる、無慈悲な作戦。



「しかし、そこまでする必要があるのか……? 確かに今回の件で帝国との関係は悪化したし、共和国だって攻めてこないとは限らない。けど、それはもはや戦争ではなく虐殺になるぞ……?」



 あのケーネが珍しく、歯切れ悪げに問いかけます。



「それは私も考えたわ。けれどね、今回の件でお母様が矢面に立たれた時、私はとても心が張り裂けそうになったのよ。そんな思いは、もう王国の民にしてほしくない。

 なら、他の国がウチにちょっかいをかけられないほどに強くなれば? 国力でも軍事力でも、他の追随を許さないほどに成長してしまえば?

 そのための守りなのよ。ウチはどこかに攻め入ることは絶対にしない。でもその代わりに、どこの国もウチに攻め入ることはさせない」



 ケーネに説明しているうちに、自分の中でも考えが確固たるものになっていきます。私が大臣に目を付けられたのも、帝国の特殊部隊に襲われたのも、王国が他国に軽く見られているからでしょう。


 もちろん、今すぐに周辺の国々と事を構えようという話ではないわ。今まで通り、移住を望む人々は快く受け入れるし交易も活発に行っていくつもり。

 

 私が目指すのは、王国の民が誰一人傷つくことなく安寧に暮らせることなのです。



「そこまで考えてのことなら、俺に反対する理由はない。実際、この案が実用化されれば王国兵の損耗は減るだろうし、他国も無茶な侵略をしてこないだろうから結果的に被害が減る。悪いことじゃないのは明らかだからな。

 わかった、この案は軍部と技術局で話し合っておく。ウチの技術力だけじゃ厳しいことでも、あのオッサンに聞けば粗方解決するだろ」


「オッサンって……ああ、ドラン将軍ね? なるほど、彼に聞けば何とかなりそうね。

 じゃあ、お願いします。なるべく早くお願いね」


「了解した。数日中には経過を報告させるようにするよ」





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