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天才王女は村の人に励まされます

「私が言うのもおかしな話ですが、本当によかったのですか……?」



 レリナ村、青年団団長メッセの家の一階に招待された私たちは飲み物を頂いた後、集まってきた村の人たちとお話をしていました。

 子供たちが足元を元気に走り回り、それをお母さんたちがあやすという微笑ましい光景。そんな中で、私の口を突いて出たのはそんな言葉でした。



「よかった、とは? 夫たちをレーナ様の救出に行かせたことでしょうか?」


「ええ。こう言っては身も蓋もないけれど、貴方たちには協力する義理はなかったはずよ。いくら私たちが王女や国王であったとしても、わざわざ身内を危険に晒してまで……

 いや、気持ちはとても嬉しいのよ? けれど、私たちは貴方たちの好意によりかかってしまっている。それが申し訳なくて———」


「そうだな……確約は出来んが、王宮へ戻れば褒章の準備をせねば。一国の王として、民から受けた恩を無碍にすることは出来ん」



 重々しく息を吐きながらお父様は頷き、それに呼応するように護衛の人たちも頷きます。


 しかし、村の人たちの反応は真逆でした。


 さっきまで子供の相手をしていたお母さんの一人、恰幅の良い女性がぽつりと口を開きます。



「この子は、生まれた時から身体が弱かったんです。でもこの村には十分な物資も、病気をきちんと治せる医者もいない。こういう状況で、子供がきちんと育つ可能性は相当低いものなのです」



 そっと我が子の頭を撫でながら語る女性。撫でられたことで屈託ない笑みを浮かべる少女に、女性もまた笑みを返します。



「そんな時、行商人がわざわざこの村までやってきて商売を始めたのです。最初は何かの罠かと心配しましたが、商人の服には王家の紋章。しかも持ってくる品はどれも安価で高品質ものばかりでした」


「それ、私のところの部下だわ……相当遠くまで足を延ばしていることは知っていたけれど……」

 


 王家の紋章を付けた商人……間違いなく、シャルル商会かシャルロット商会の人間でしょう。私のもとにそんな報告が上がってきていない以上、アンネの部下がここまで物品を売りに来ていたようです。



「その商人が、誇らしげに言うのです。『次の王女様もスゲエお方だぞ!』って。実際、こんな辺鄙な場所にまで王都の役人さんが戸籍を調査にいらしましたし、彼らも口々に王女様の良いところを語っていきました。そして、これです」



 そう言いながら差し出される小さな箱。王家の紋章———百合のマークをデフォルメしたものが瓶にプリントされ、中には小さな白い丸薬。


 紛れもなく、私の作ったサプリメントです。



「『平民病』を治すばかりか身体の調子を良くしてくれる、そんな素晴らしいお薬がほとんどタダみたいな値段で買えるのです。その商人によれば、これをお創りになって広めよと指令なさったのは王女殿下だと。

 それだけで、私が王女殿下のお力になる理由は十分なのです」


「でも……それは宣伝と生産性のためにそうしているだけであって……別に貴方たちを救いたいとか言う高尚な理由があってのことじゃないわ……」


「それでも、私たちが救われたのは事実なのです。この村だけでも、何人の子供がこのお薬に救われたか分かりません。

 たとえ王女殿下の思惑が別のところにおありなのだとしても、私たちには関係ないのです」



 でも……と続けようとした私の足元に、さっきの女の子が駆け寄ってきます。それに釣られたのか、わらわらと駆け寄ってくる別の子供たち。私にしがみついているやんちゃな男の子たちが五人、少し離れたところにはその倍ほどの子供たちが集まってきました。



「な、何かしら……? 今は貴方たちのお母さんとお話ししていて……」


「あのねあのね! お腹痛いのなおったの!」


「オレは足痛いのなおったぞ!」


「百合のお姉ちゃんが作った薬でなおったって母ちゃんが言ってたんだ!」


「だからね、ありがとうなの!」



 きゃいきゃい嬌声を上げながら口々にお礼を述べる子供たち。その表情にも、瞳にも打算の色はなく、ただ純粋に思ったことを口にしていることが分かる『無邪気な好意』。



「そう……よかったわね……」



 思いもよらぬところからぶつけられた、どうしようもなく純粋な好意。

 興奮する状況ではないのは分かっているけれど、それでも胸の奥から熱いものがこみあげて止まらない。


 しばし無言で、震える口元と潤む瞳を顔を伏せます。


 次代を担う子供たちが、私を無条件で信用してくれている。

 今代を担う大人たちが、私の働きを評価してくれている。


 そのことを実感するだけで、こうも心が震えて止まらないのでした。



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