お母様は襲撃者と戦闘します
「私が正面から敵兵を蹴散らすので、その隙にお父様とエレナちゃんは安全なところまで避難して。谷を抜けたところに小さい集落があるから、そこまでいけば大丈夫でしょう」
「お母様、何を仰っているのですか⁉ それではお母様が、お母様がっ……!」
つまりお母様の仰っていることは、自分が囮になるから私たちだけ逃げなさい、ということです。そんなこと受け入れられるはずもありません。
ですがお母様はにこりと笑うと、私の手を取って目を覗き込みます。
「大丈夫、きっと帰ってくるわ。それに、私が囮になるのが最善の方法なのよ。
それともエレナちゃんは、みんなここで敵兵に殺されてあげるのが一番いいと思う?」
「いえ、そんなことはッ! ですが……!」
そうだ、お父様なら止めてくださいますよね⁉ そう期待を込めてお父様の方を向くと、今まで静かに瞑目していたお父様が口を開きました。
「……レーナ、必ず戻ってくるのだな?」
「ええ、私の居場所はあなたとエレナちゃんのいる場所ですもの。必ず戻ってきますわ」
「そうか……なら、頼んだぞ」
お父様の言葉に、お母様が花の咲くような笑みを浮かべます。
その笑みに、皆が一瞬見惚れたその間隙をついて、お母様はそっと部屋を出ていくのでした。
「さて、格好よく飛び出してきたのはいいけれど、武器もないのではどうしようもないわね……」
きょろきょろと回りを見渡し、手ごろな得物を探すレーナ。その様子にはまるで緊張感などなく、むしろどこか楽しげな様子すら伺えます。
と、視界の端に小型のナイフが。そばには絞め落とされた敵兵が転がっているので、どうやら敵の武器のようです。
無造作に拾い、軽く振って感触を確かめていると
「———ようやく目標を発見。これより戦闘を開始する」
通路の先、曲がり角の暗がりから滑るように現れる三人の敵兵。流れるような動作で構えた短機関銃が、その口から轟音と鉛玉を吐き出して輝きます。
レーナに迫る、無数の弾丸。一発でも当たれば即死のそれを———
「あら、危ないじゃない」
足元に転がっていた敵兵を、即座に蹴り上げて盾にしつつ後退。そのまま物陰に滑り込んだと同時に、敵兵の血でレーナの立っていた場所に赤い雨が降ります。
しかし敵もさるもの。全く動揺することなくレーナの潜伏場所をめがけて正確に銃弾を叩きこみます。毎分800発発射される銃弾は容赦なく屋敷の壁面を削り、レーナの隠れている彫像を壊して彼女の身体ごと貫いて———
「狙いも判断もいいけれど、それじゃ足りないわ」
三人のうち、二人が再装填する隙を見計らって側転。そのまま床を這うように突撃することで、再装填を終えて放たれる銃弾を紙一重で回避します。
そのまま接敵し、一閃。
続けざま、もう一人の後頭部を蹴り飛ばして昏倒させると最後の一人にナイフを投げつけます。
寸分違わず眼窩を貫くナイフに、最後の一人が崩れ落ちました。
一瞬のうちに三人を倒してなお、返り血すら付けずに優雅に立つレーナ。
かすれ行く意識の中で、頭を蹴り飛ばされた男は恐怖と共に彼女の異名を口にします。
「……その美貌……その身のこなし……さすがは『葬送の美姫』だな……」
かつて王国が小国連合から侵略を受けた際、単身で敵の一個大隊を壊滅させた女性がいました。
白銀の髪と比類なき程の美貌。しかしひとたび戦場に出れば、彼女の周りには血の花が咲き乱れるとまで噂された女性が。
誰よりも死に近い場所に飛び込みながら、常に『見送る側』であったことから付けられた異名。
その主は、敵兵の言葉を聞いてなお嫣然と微笑みながら口を開きます。
「あら、私はすでに『姫』ではなくてよ? これからはエレナちゃんが、その異名を継ぐのだから覚えて頂戴。
ああ、でも貴方たちはエレナちゃんを襲いに来たのよね? なら、覚えて死んでいきなさい」
寸刻、彼女が振り下ろした手からもう一本のナイフが放たれ、襲撃者たちは完全に沈黙するのでした。
二話ほど前の前書きで書いたと思うのですが、ポンコツ筆者はあれからも右腕の痛みに悩まされていました。
ですので本日整形外科に行ってきたのですが、特に病名も分からず、ただ痛み止めと湿布をもらっただけという。まだ痛いんですケド……
ま、まあキーボードは叩けますしペンも持てます。運転もできますし何とかなるでしょう! 何とかなれ!
以上、ポンコツ筆者の近況でした。これからもよろしくお願いします!




