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王女殿下はやっぱり天才でした

「——————などと相手は考えてるのでしょうね」


 ナンコーク王宮執務室に、ケーネの淹れたコーヒーの香りが溢れます。


 エレナはほっと息を吐くと、カップに口を付けました。


「しかし、よくあんな思い切った提案を吹っかけたな。断られたらどうするつもりだったんだ?」


 そう、もちろんあの場所ですげなく断られる可能性だってあったのです。

 

 むしろ、普通ならば断わられる可能性のほうが高い提案でした。

 

 しかし——————


「あー、別に断られても構わなかったのよ」


 あっけらかんと告げるエレナ。その顔には笑みが張り付いています。


「だって、南西部の復興はもう終わってるもの」


 事も無げに放たれた言葉に、従者の少年は目を見開きます。一体、眼前の少女は何を言っているのでしょう?


 事態が呑み込めていないことを察したのか、エレナは子供を諭すような口調で説明し始めました。


「だからぁ、南西部の住人には十分すぎるほど補償もしたし、街路の整備も終わってるの。てか、あんたが会談の途中で持ってきた情報は、それの完了を示してた暗号だし。会談までに間に合うかはギリギリだったけど、まあよゆーですわ」


「——————じゃあ、今回の会談で帝国からもらう資材や資金は……?」


「そんなもの、黙ってもらっとけばよくね? ちょうど国庫も軽くなってきたことだし」


 帝国にバレれば国際問題に発展しうる暴言に、ケーネは思わず頭を抱えます。この時ほど、執務室を防音に改築しておいてよかったと思った瞬間はありません。


 つまり、エレナは表では聖母のような笑みを浮かべながら悪魔のような条件を帝国に飲ませ、裏では帝国から資金と資材を掠め取る算段をしていたのです。


 さらにエレナは机の引き出しから書類の束を取り出すと、ケーネに手渡しました。


「あと、これが王国南西部の地形や人口分布なんかの資料。いやー、バレない程度に書き換えつつ、万一悪用されても役に立たないどころかむしろ害になるように調整するのは疲れたわ」


「——————それ、頼むから誰にも言わないでくれよ……? バレたらこの国終わるぞ?」


「言うわけないじゃん。言っても私に何も利益がないし」


 かくして、王国始まって以来の才媛と名高いエレナによって、莫大な資金と大量の資材が国庫に納められたのでした。


 ここから30年後、王国から提供された資料を元に、帝国軍が大侵攻を行いました。兵力差はおよそ10倍以上ありましたが、寡兵を率いてエレナは大勝。歴史の資料や兵法書にも取り上げられるほどの出来事になりましたが、またこれは別の話なのです。


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