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王国側はさらに追撃します

「して、帝国側はどのような対応をなさるのかな? こちらとしては、先ほどレーナが言ってくれたようにこのまま水に流すことなどできないのだ。一国の姫が、しかも私たちの娘が貴国の大臣に監禁され、あまつさえ手籠めにされるところだったなど許せることではない」


「そ、それは当然のことでしょうな。しかしそのような重大な案件、今ここで解決することが果たして最善なのか……」


「そ、そうだぞトラン国王。それほどの大事ならお互いに一度持ち帰るのが得策で———」



 お父様の言葉に弱々しく反論する第一皇子、そしてそれを擁護する第二皇子にお父様は鋭い一瞥を向けます。それだけで二人の口は息を呑んで黙り込みます。


 二人の言いたいことは私も分かりますが、この段階でその発言は無駄というものです。お母様がお怒りになる前の状況で同じことを言えばこちらも納得せざるを得なかったでしょうが、場の空気が完全にこちら側にある以上先延ばしにするような発言は受け入れられるはずもありません。


 それを分かっているからこそ、お父様も強気な発言をなさるのです。



「持ち帰る……? 先ほどコーラル皇子は娘に謝罪なさったが、あれは『第一皇子』として行った行為であろう? であれば帝国の意思決定は貴公がここで行っても問題あるまい。幸いにも隣に第二皇子殿もいるのだから、その決定に異を唱える者などいるはずもない」



 わあ手厳しい。皇子たちも後ろに控えている随員たちも真っ青になっちゃった。


 確かにこの場で意思決定することは出来ても、国内に戻れば間違いなく吊し上げられるものね。まず臣下をきちんと管理できていなかった監督不行き届き、そして帝国に不利な条件を呑まされたという責任問題で次期皇帝の座を狙うどころか、よくて謹慎、最悪の場合投獄や極刑すらありうる状況だもの。何とかして落としどころを模索しているのでしょうけど、本気を出したお父様とお母様相手に抜け道を探すのは至難の業です。


 ですがこれ以上、彼らを虐めたところで話は進みません。血迷って変なことを口走られても困りますので、この辺で幕引きにかかるとしましょう。



「お父様、お母様、実際に被害を受けたのは私です。であれば私にも発言権があるように思うのですが、許していただけるでしょうか?」


「ふむ……道理は通っているな。いいだろう、発言を認めよう」


「そうね、私もエレナちゃんの気持ちを聞いてみたいわ」



 形式的に伺いを入れた私に二人はそれぞれ了承の意を表明し、意味ありげな視線を私に向けます。


 もしかしたら二人とも、私がこうして発言するのを待っていたのかもしれませんね。



「では、発言させていただきます。

 皆様もご存知のこととは思いますが、私は先日、帝国のザルバ財務大臣に睡眠薬を盛られ、監禁されました。その上で手足の自由を奪われ、私に性的な暴行をほのめかす発言をなさいました。今でもあの時のことを思い出すと、身体が震えそうになりますの」



 ここで自分の身体を両手で抱いて見せます。後ろに立っていたミリダがそっと背中をさすってくれるのを感じつつ、私は深呼吸して続けます。


 第一皇子が何か言いたそうに口を開きかけましたが、今は発言させません。まずこちらの要求を伝えてから反論は受け付けるとしましょう。



「それだけではなく、大臣は王国へ他国の兵を差し向けるとの発言をなさっていました。その企み自体は何とか阻止いたしましたが、もし実現していればまた王国の民が大勢傷ついたことでしょう。つまり、今回の件は私だけの問題ではなく、国家間の問題でもあるのです。

 以上から鑑みるに、大臣の罷免と処罰はもちろんのことですが、帝国として責任を取っていただきたいと思います。具体的には王国の輸出品に対する関税の撤廃、そして帝国の国内総生産の一割を賠償金として王国へ支払っていただきたい」


「そんな無茶な! 王女殿下は帝国を滅ぼされるおつもりか!」



 椅子から立ち上がらんばかりに反論するコーラル皇子。今まで呆然と話を聞いていただけの彼が血色を変えて叫ぶほど、この要求は厳しいものなのです。


 要は帝国に長期にわたってダメージを与えつつ、その上賠償金まで取るというもの。もしこの要求を飲めば、私の予想で帝国の経済は年3%ほどの衰退を余儀なくされるでしょう。今までのように軍備にお金は使えなくなるでしょうから、周辺諸国からの侵略も怖いでしょうし。


 ですが、ここが正念場。何としてでも飲んでもらわなければなりません。



「まさか、滅びはしないでしょう。最近帝国の北西部で新たな金脈が見つかったと伺っておりますし、近年の貴国の成長率は目を見張るものがあります。ここに来る前に軽く試算いたしましたが、十年もあれば今の成長率まで回復できるかと」


「しかし……! いや、それもやむなしか……」



 反論しようとした第一皇子を、笑顔で見つめるお母様とお父様。その表情から、自分に逃げ場がないことを悟ったのでしょう。


 こうして、帝国との交渉は王国側の完全勝利で終わったのでした。


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