お嬢様はまだまだ子供です
――――大臣を、懲らしめる。
私の口にした言葉を実現するべく、私たちは馬車に乗り込みます。私とケーネ、ミリダにアンネが同じ馬車に乗り、お父様とお母様は別の馬車へ。一つの馬車に固まって乗ってもいいのですけど、襲撃されやすくなる可能性はなるべく排除しておきたかったので分乗することにしました。
それぞれの馬車に護衛の人たちが乗り込むと、馬車はゆっくりと進んでいきます。目的地の王家療養地までは半日ほど。恐らく大臣の一味が襲撃してくるとしたら療養地のすぐそばの大渓谷でしょうけれど、護衛の方たちの中にはすでに緊張感が漂っています。
王都を抜け、各領主の治める領地へ入る前に小休止。馬車というものは案外乗り心地が悪く、こうして二時間に一回ぐらい休憩を挟まなければ、乗っている人も引いている馬も身体が持たないのです。
少し早い昼食を摂っていると、アンネが口を開きました。
「ねえエレナちゃん、朝の話だけど……何か怒ってる……?」
「――――別に何も怒ってないわ。というか、聞いていたのね」
「盗み聞きは謝るよ。けどね、そんな顔をしながら『怒ってない』なんて言っても信憑性ないと思わない? ほら、護衛の人たちも困っているわ」
アンネに言われて周りを見ると、確かにみんな困った表情を浮かべています。アンネに言われるまで気付かなかったことに驚愕し、しかしそれを無表情のうちに隠して答えます。
「本当に、お父様たちに怒っているわけではないから安心して。強いて言うなら、悔しかったのかもしれないわ。
だってお父様たちは、私を心配してこの作戦を隠していたのでしょう? 私なら大丈夫なのに……もっと、私を信用なさってくれてもいいと思っただけよ」
「恐れながら王女殿下、それは少し違うと思います」
私の言葉の直後に、護衛の一人から声が上がりました。今まで彼らが私に意見することなんてなかったし、声を上げた彼は特に寡黙な壮年の男性だったように記憶していたので少し驚きます。
「王女殿下は先ほど、自分を心配して陛下が作戦をお伝えにならなかったことを『信用のなさ』と結び付けておられていましたが、それは違うのではないでしょうか?」
「あら、貴方が私の父を語るの……? まあいいでしょう、続きをお願い」
「はっ、それでは無礼を承知で続けさせていただきます。
王女殿下もご存知の通り、私には妻と娘、息子がおります」
「ええ、知っているわ。それで?」
「一人の親の立場からして、我が子を喜んで危険に晒したいとは思わないのです。自分の子供にはなるべく安寧に、平穏に暮らして欲しい……そう、親なら思うのです」
噛み締めるように、言葉を選びながら語る壮年の男性。その言葉に、妻子持ちの護衛が何人か頷いています。
……親になれば、私にもその気持ちがわかるのでしょうか? 今の私には理解はできていても、納得は出来ません。どうして私を作戦に混ぜてくださらなかったの? と思ってしまうのです。
「王女殿下は何でも一人で出来てしまわれるほど凄い方です。それは私たちも、そして陛下もよくご存知のことなのです。しかしそれとは別に、我が子を大切に思うが故の陛下のお気持ちを、どうか……!」
「そこまで言われなくても分かってるわ、と言いたいところだけど、そこまで言わせた私が今回は悪いわね……とりあえず、ありがとうと言っておくわ」
私の言葉に、張り詰めていた空気がふっと解けます。護衛が王女に意見し、さらに王の気持ちを代弁するなんて本来なら許されることではないですからね。彼も謹慎ぐらいは覚悟して発言したのでしょう。
別に私は公式の場でなければ、これぐらいの無礼は許すつもりなのですけど。彼のように昔からの臣下には礼儀作法や忠誠を重んじる方もいるようです。
「みんなも、別に気にしなくていいわ。本当に怒っているわけではなくて、むしろ納得できる部分の方が多いもの。ただ、自分の余計なプライドが邪魔をしていて、今朝はあんな可愛くない態度をとってしまったのよ。今考えたら、あの態度はよくなかったわね……あとで謝りに行くとしましょう
さあ、そろそろ休憩は終わりよ。護衛の方たち、あともう少し頑張って頂戴ね」
「「了解いたしました」」
昨日も猫さんから感想をいただきました。Thank you for impression!
昨日の更新分で『エレナとパパママの仲が悪くなる……?』という心配のお声を頂いたんですが、見事に今日の更新分で解消されましたね。
何度か筆者も申し上げてきた通り、エレナはまだまだ十七歳の少女。いくら理解が出来ていることでも、心情的に納得のいかないこともあるお年頃です。
母親から『勉強しなさい!』と言われて『うるせえな!』と返してしまうアレですね。いや、もっと高次元の話なんですケド……
そんなわけで(どんなわけで?)、明日もよろしくお願いします!




