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病み上がりは天才王女に説得されます

 眼前の王女の、まだあどけなさすら残る少女の口から告げられる自分への素直な罵倒に、血流が逆流したように熱が灯ります。反駁しようと開いた口を、しかし王女は微笑みながら口を開くことで遮ります。



「だってそうでしょう? たかが病気ごときで意思を折られて、そうして醜く座り込んでいるのだから。しかも図星を突かれたらそうやって感情的に反論しようとする。これを『愚か』のほかに、どのように形容すればいいのかしら? ああ、『駄々をこねる子供』と例えてもいいわね」



 形の整った唇が紡ぐ、冷たく残酷な嘲笑。そこまで見下した態度を取られるとは思っていなかった私の思考は真っ白に染まり、押し黙る私に追い打ちをかけるように王女はさらに言葉を続けます。



「あのリリンフェルトさんが選んだ女性だからと期待していたけれど、ここまで愚かだったとはね。本当に恩人の妻でなければ王国から叩き出していたところよ。自分の素晴らしい旦那に感謝するのね」


「……撤回、なさい」



 わかってる、これは罠だ。私をわざと挑発して、発破をかけようとする類の。


 でも、このまま小娘に言われ放題でいいの? そんなはず、ないでしょう!


 冷たく凍り付いていた臓腑が、無理やり焚きつけられた怒りで煮えくり返る。ああ、これを狙ってやったのだとしたら、とんだ王女様ね。



「なんの不足も、なんの辛さも感じることなく暮らしてきた王女様にはわからないことだってあるのよっ! 望んだものがすべて手に入って、周りの人間が貴方のために動いてくれるようなぬるま湯から言葉を放ったって誰の心にも響かないわ! リリンだって、貴方の地位に従っただけなんだから!」



 ただ、激情に任せて投げ捨てただけの醜い言葉。彼女の言葉を借りるなら『駄々をこねる子供』と同じ、いやそれ以下の汚い言葉。


 うつむいた王女の、その肩が微かに揺れます。ゆっくりと上げられた顔には何の感情も浮かんでおらず、彼女の傍に立つ護衛の手が腰に下げた剣に触れたのを見て、自身の首が飛ぶ姿を幻視して———



「あはははは! なるほど、なるほどね。なら、貴女が私におびえる必要はないわね。何その顔、まるで処刑される前の罪人みたいな表情をしているわよ」


「———は? え……」



 護衛を手で制しつつ、先ほどまでの高貴さなど微塵も感じられない、等身大の少女の姿で楽しそうに笑う王女の姿を見て今度こそ思考が固まります。



「言いたいことは山のようにあるけれど、貴女の言ったことは私の一面を的確に捉えているわ。何よ、やればできるじゃない。

 そう、私に従ってくれている人の多くは私の地位と報酬に従っているに過ぎないわ。もちろん、リリンフェルトさんも打算と見返りに従ってるだけ。そんなことは最初から分かっているから安心なさい」


「それは……」


「人間とは単純な生き物でね、本質的には権力者に忠義や恩義を感じるはずはないのよ。ならもっと単純な報酬や地位というものに従ってくれればいい。

 私が求めるのは成果だけ。過程は成果の添え物でしかないし、そこに忠義がないのだとしても構わない。第一、その年齢になれば何が悪で何が正義かぐらいかは分かるでしょう。であれば、己が正義に従って行動すればいいのよ」


「では、先ほどの無礼も許していただけると……?」



 思わず、自分の口をついて出た言葉に自分が一番驚きます。死んだ私が、許しを請うなどどうかしています。



「さっきまでの貴女なら、私があなたの首を叩き落していたかもしれないわね。けれど、今の貴女は違うのでしょう? 自分で考え、自分の足で立つことのできる『人間』を、同じ『人間』である私が断罪するなどおこがましいというものだわ。

 何であれ、選ぶのは貴女よ。確かに貴女は辛い思いをして、その上病気にかかって一度は立ち止まったのかもしれない。でもその上で抗うと、もう一度足掻くというのであれば、私はそれを『美しい』と形容するわね」



 歌うように、詠うように、謡うように。零れ落ちる言葉はどれも激しい熱量を内に秘めて、眩いほどに光を放ちながら私の心を溶かしていく。

 彼女の言葉が放つ、その熱に心の深いところから何かが膨れ上がる、そんな感覚。



「今一度問うわ、エスティア。私の下で、働いてくれないかしら?」


「はい……はい……! 謹んで、お受けします……!」



 差し出された細い、真っ白な手をそっと取る。なるほど、これが今代の王女ですか。


 すべてを包み込むような笑みで、しかし、甘えを許してはくれないだろう壮絶な笑みで、手を差し出したエレナ王女殿下が、その口を開く。



「では、貴方の能力をあてにさせてもらうわ。これからよろしくね」

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