病み上がりは天才王女と邂逅します
淡い桃色を基調とした内装に、品のいい調度品。自分が寝かされているベッドも、傍らに置かれている機材も、帝国ですら見かけないほど高性能なものばかり。ここの設備を整えた人間は、相当気合を入れていたのでしょうね。
それなのに、私の心は微塵も動かない。かつてなら、見たことのない物に対しては誰よりも好奇心を掻き立てられていたというのに。
それも当然、私はすでに死んだ身なのだから。
一年前、夫が政争に負けてからというもの、私たちの身辺は慌ただしくなった。その時の無理も相まって、熱を出したのがすべての始まり。いや、終わりでしょうか。
病院で告げられた病名は、結核。現代医療ではどう足掻いても治せない、まさに不治の病。
夫はあの憎き大臣に頼み込んでまで私を病院に入れたけれど、正直やめてほしかった。どうやっても治せない病気に、そこまでして抗うことが最良だとは思えなかったから。もし私のかかった病気が感染力の強い病気でなければ、入院することを拒んだかもしれないと思う。
案の定、入院してからも私の容体はどんどん悪化していくばかり。繰り返される薬の投与も精密検査も、まるで効果がないの。薄れゆく意識の中で、なんて無駄なことをしているのだろう……と何度も考えたけれど、すでに抗う気力もなくなっていた。
けれど、今はこうして生かされてる。すでに捨てたはずの命が拾われ、日に日に身体が楽になりつつあるのを感じるほどに。
夫と再会した時には、それは嬉しかった。けれど私はすでにもぬけの殻。これからどうすれば……
「あら、起きていたのね。こんにちは、エスティアさん」
病室のドアを開け、軽やかな足取りで入ってきたのはエレナ王女。大陸一の美姫と名高い彼女は、微笑みながら病室を見渡します。
「貴女が目覚めた時に少しお話をしたのだけれど、改めて自己紹介をさせてもらうわね。私はエレナ、この国の王女です」
「存じ上げております。私はエスティア、このような格好での無礼を、どうぞお許しください」
「いいのよ、貴女は病み上がりでしょう。それで、お加減はどうかしら?」
「王女殿下のご高配により、順調に回復しております。じきに動けるようになるかと」
これは本当のこと。あらかじめ用意していた答えだけに、私の口をついてすらすらと出てくる。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、体調のことを言っているのではないわ」
だから、王女殿下の言葉の意味が分からなかった。意識の外から飛んできた言葉に彼女の顔をまじまじと見つめると、上品に手で口元を隠しながら微笑みます。
「体調のことなら、そこにいる主治医に聞けば分かるもの。私が仕事の合間を縫って、わざわざ貴女に聞きに来ることではないでしょう。
私が聞いたのは、貴女の心の病についてよ」
何を、言っているのでしょう? 心の病?
しかし内心を見透かされたような気がして、どこか頭から血の気が失せていきます。
「リリンフェルトさんは私を助けてくれた恩人。その彼が望むから貴女をこうして治療しているけれど、正直王国には死人を介抱するだけの余裕はないの。
だから私は問うたのよ。『お加減はどう?』と」
誰もが見惚れる微笑みから放たれる、冷たく鋭い言葉。私よりも年下の少女が、しかし視線を逸らしたくなるほどのプレッシャーでもって私に問いかけてくる。
「では、逆に。失礼ながら私と何ら関わりのない王女殿下が、私の内心を見透かしたような発言をなさる根拠はいずこに?」
不愉快そうに顰められた眉に、私は自分の失言にやっと気が付きます。けれど時すでに遅く、飛び出した言葉を取り戻す術はありません。
同時に、心の深いところでヘドロのように固まる諦観が私を冷静にします。すでに死んだ身、ここで王女殿下に断罪されたとしても構いはしないのです。
「……ここが公の場でなくてよかったわ。恩をかけた相手からのそのような態度、いくら恩人の妻でも許されるものではないから。
付け加えるなら、私がその問いに答える義務もないわよね……でもまあ、いいでしょう、答えてあげるわ」
傲岸に、不遜に。けれどその態度に見合うだけの地位と雰囲気で彼女は口を開きます。
「貴女が、愚かだからよ」




