天才王女は後始末に追われます
「……えれな、エレナ……さすがにそろそろ起きないか……?」
「あふ……おはよう、ケーネ。もうそんな時間?」
翌朝、私はケーネの声でいつもよりも一時間遅く目覚めました。昨日はいつもよりも相当早く寝たにもかかわらず起きれませんでしたか……まあ、相当気を張っていたので、仕方ないと言えば仕方ないでしょう。
しかし、私がいない間にも日々は過ぎていき、仕事も溜まっていくのです。しかも小国連合との折衝や帝国との交渉だって山積しています。
朝ごはんもそこそこに、すぐにお父様に昨日できなかった報告をします。お父様は終始難しい顔をなさっていましたが、最後に『よく頑張ったな』と仰りました。どうやら、判断は間違っていなかったようです。
帝国との交渉はお父様がやってくださるようです。確かにここは私が動くよりも、父親としてお父様が動く方が効果的でしょう。あえて私が前面に出ないことで、『心身に深刻な被害を受けた』という印象を周りに広められますからね。
お父様と今後のことをお話ししていたら、いつの間にかお昼前。ミリダが軽食を持ってきてくれたのでお父様と久々に一緒に昼食を摂り、私はそのまま執務室に向かいます。
「エレナ、こっちが未解決の書類でこっちがサインするだけの書類。じっくり読まなきゃならないものに関してはそこに積んであって、そこの山が緊急性を要するものだな。とりあえず仕分けをしておいたから、ひとつずつ片づけていかねえと」
「そうね……ケーネ、悪いのだけど未解決の書類に関して、それぞれ2から3行ぐらいで要約しておいてくれない? 私は急がなきゃいけない書類を片づけるから」
「妥当だな。やっておこう」
しばし二人で書類と格闘していると、執務室のドアを叩く音が。書類から意識だけは離さず、どうぞ、と声をかけると入ってきたのはスミスでした。
「王女殿下、お久しぶりでございます。いまお時間よろしいでしょか?」
「ええ、久しぶりね。作業しながらで構わないなら空いてるわよ」
それでは要件を読み上げますね、と続けるスミスの言葉に慌てて意識を半分傾けます。
まずは私がいない間のシャルロット商会の状況説明。そこから考えうる問題点とその解決策が続いて語られ、最後にその問題を解決するために必要な予算の話へと話題が進んでいきます。
さすがは元共和国の有力商会の会頭ね。説明も分かりやすくてありがたいわ。
「新商品の売り上げは上々、けれど需要の多さに生産ラインが逼迫したとなると……そうね、やはりあなたの見立て通り従業員を増員するしかないでしょう。
自分で言うのもあれだけど、シャルロット商会が求人を出せば人だけは集まるわよね。問題はそこから人選をどうするか……」
「求められる品質が高い故、従業員にもそれなりの技術と経験が求められます。採用後すぐに即戦力、というのは難しいでしょう」
「なら、商会の新人を育成するための機関を別に設立しては? 建物は再開発予定の地区に立てればいいでしょう。さっきあなたが説明した予算の中でできうる現実的な解決策はそれぐらいね。
そこの責任者、人員に関してはスミスの方で調整して頂戴。決まったら私に報告書を回しておいてね」
「なるほど、それは妙案ですな……しかし責任者となると、そう簡単にはいきますまい———」
突如響いたノックの音にスミスが言葉を切ります。私は目線で彼に許可を取ると、どうぞ、とドアの方に声を掛けました。
「失礼しますっと、今は忙しかったか?」
入ってきたのはリリンフェルトさんでした。思わぬ来客に一瞬戸惑いますが、同時に名案を閃きます。
「そうだ、リリンフェルトさんがいるじゃない! ねえ、貴方今は手持ち無沙汰よね?」
「お、おう。というか、何かすることはないかなってここまで来たんだが……」
「なら、私の下で働いてちょうだい。具体的にはそこのスミスに聞いて、すぐにでも始めてほしいの」
いよいよ困惑を隠しきれない二人をよそに、私は手元のメモにさっきスミスと話していた養成所の具体案と、リリンフェルトさんに任せられそうな仕事の具体的な内容を書き込んでいきます。
リリンフェルトさんは元帝国の財務大臣ですからね。育成所の責任者としてこれほど適任はいないでしょう。奥さんのエスティアさんが元気になれば、さらにできることは増えるはずです。
「はい、これを見ながら進めてね。分からないことがあれば聞いてくれて構わないから」
「おう、なんだかよくわからんが任せとけ。じゃあ、俺たちはこれを詰めてくる」
そう言いながら退出していく二人を見送りつつ、また私は目の前の書類と格闘を始めるのでした……




