天才王女は帝国貴族とお話しします
筆者、なんと二週間ぐらい微熱が続いてるんですよ。皆さんの応援のおかげで、投稿を始めた一ヶ月前から心は常に温かいのですけど、身体は温かくなくてもいいんですよね……
ぜひともエレナさんに看病して頂きたいところなのですが…ミリダもケーネも許してはくれないでしょうし…
何はともあれ毎日更新を続けておりますので、皆様よろしくお願いします!
「失礼いたします、スティア卿。今お時間よろしいでしょうか?」
「ええ、ちょうど仕事が終わったところです。ささ、どうぞお座りください。アリナ、何か飲み物を用意してください」
アリナ、と呼ばれた美しい女性が一礼して部屋を去ります。女の私でも振り返ってしまうほど、彼女からは色気が溢れかえっています。ケーネと同じ黒髪なのに、こうも印象が違うものなのですね。
きっと、卿の大切な人なのでしょう。そんな雰囲気がひしひしと感じられます。
目の前にカップが置かれるタイミングを待って、私は本題に入ります。
「まずは、卿に最大限の感謝を。私の友人たちを匿っていただき、またこうして温かく接してくださること、感謝のしようもありませんわ」
「友人、か。ならば、一つ貴女の考えを正しましょう。私はケーネくんたちを『匿った』つもりはありませんよ?
私はエレナ姫、貴女のことを僭越ながら『友人』と考えているのですが、違いましたでしょうか?」
「いいえ、卿にそう言っていただけるのは嬉しい限りですが……」
「であれば、友人の友人であるケーネくんたちもまた、私の友人ということになるでしょう。友人が私の家を訪ねることに、何の理由が必要でしょうか?」
少し芝居掛かった言い回しですが、要するに卿は『心配するな。大臣への言い訳はすでに成立している』ということを伝えたいのでしょう。さらにメタナリア人のケーネに対して『友人』という表現を使うことによって、スティアー卿がメタナリア人融和派であることを確定させています。
これが大陸一の貴公子と呼ばれるスティアー卿の『間の測り方』ですか。私も学ぶところが多いですね。
「卿のそのお言葉、秘書の自分には過分かと存じます」
「ケーネ! あなた———」
「ですが、一人の人間として嬉しく、また好ましく思います。本当に、ありがとうござます」
一瞬の呼吸を置いて、ケーネが膝をついて礼の姿勢をとります。普段とあまりに違う彼の行動に、私は高鳴る鼓動を抑えられません。
ふう、不意打ちとはケーネもなかなかやりますね。
「ケーネくん、私と君は友人なのですからそのような礼は堅苦しいというものですよ? ですが、真面目な君らしいといえばらしいのですが。
さてエレナ姫、先ほど『まずは』とおっしゃっていましたが、他にも何か?」
「先日、卿からお手紙を頂いたでしょう? 本当に申し訳ないのですけど、都合が悪くなってしまいまして。その報告とお詫びをしようと思っていたのですわ」
「なんだ、そんな事でしたらお気になさらないでください。むしろ、淑女の都合も考えず手紙を送った無礼をお許しいただきたいぐらいだ。
ですが、何やら様子がただならぬようで。よろしければ理由をお聞きしたいのですが」
嫌味のない、しかし有無を言わせない笑顔でスティアー卿は尋ねます。ここではぐらかしてもいいのですけど……卿は私から理由を聞いてどうするつもりなのでしょう?
その真意がわかるまでは言いたくないのですけど……ここはひとつ、賭けに出てみますか。
「ザルバ大臣が、私を手篭めにしようとした……と言えばお分かりになるでしょうか?」
わざと微笑を浮かべながら放った私の言葉に、場の空気が一変しました。
今までの貴公子然とした雰囲気から、姿勢を正し目を細めて私に視線を合わせたのです。まるで抜き身の名刀を前にした時のような緊張感が私を支配します。
言葉通り、さっきまでの彼は『友人』として私に接してくれていたのでしょう。それをただ『貴族』としての意識に切り替えるだけでこの圧力……これが大陸一の貴族ですか。
緊張を乗り越えたら、次にやってくるのはえも言われぬ高揚感です。これほどの才ある人物と会話できることに、心の奥底が震えます。
細めた目を一旦閉じ、また改めて私にひたと視線を合わせながらスティアー卿は口を開きました。
「ザルバ大臣はれっきとした、この国の要人だ。そんな彼に対して、同じ帝国の要人である私に悪評を伝える……確たる証拠がなければ、ご自分の立場を危うくすると思うが?」
「……ええ、もちろん存じております。ですから、証人を連れてまいりましたの。ここに呼んでもよろしいでしょうか?」
「ええ、そういうことでしたら呼んでいただいて結構ですよ」
「ということだから、入ってきて頂戴」
私の声と同時に、ゆっくりと扉を開けながら入ってきた人物———その速さにスティアー卿は眉をひそめます。
ですが、直後に納得の表情を浮かべながら苦笑しました。
「そうか……君がいたのか……久しぶりだね、リリンフェルトくん」
スティアー卿が彼の名を呼んだ瞬間、私の言葉に根拠が生まれたのでした。




