帝国の守衛は過去を語り出します
「……なぜ、俺が隠し事をしていると思った? いつからだ?」
「あなた、私が何も言わないうちに私の拘束を解いたじゃない? そこでおかしいと思ったのよ。
大臣を嫌いなはずのあなたが、なぜか大臣の屋敷で守衛をやっている。でも囚われた私を助けるような行動をとる。だから私は聞いたの。こんなことをして大丈夫なのか、と」
「……俺は、嘘は言ってねえ」
「ええ、それは私にもわかるわ。これでも人を見る目はあるつもりよ」
むしろ、見る目がなければケーネやミリダには会えなかったでしょう。外交や商談の際にも、私はこの『眼』かなり信用しながら話を進めています。
だからこそ、守衛さんのいるところでリダは私に会いに来たのでしょうし、私もリダに封書を手渡したのです。私は守衛さんのことを『信頼』していますが、まだ『信用』できないというのが実情です。
「最後にもう一度聞くわ。あなたがここにいる理由は何? 何の目的でここにいるの?
答えたくないのなら答えなくてもいい。けれど、私は背中から刺されるかもしれないリスクを抱えたまま動くのは嫌なの。
力を借りたいのは山々だけど……もし話す気がないのなら、せめて私が出て行くのを邪魔しないと約束してちょうだい」
自分でもわがままなことを言っている自覚はあります。守衛さんには聞く価値のない相談であり、彼がこのまま大臣のもとへ駆け込んだとしても不思議はないのです。そもそも、彼が私の味方をしていること自体が不思議なのですから。
私の視線と、守衛さんの視線が交錯して———
「……まあ、あんたになら話してもいいか。なんてことはない、ただのつまらん昔話を」
守衛さんが息を吐きながら視線を逸らしたことで、張り詰めていた空気が氷解します。彼から放たれていた空気は大商人や手練れの外交官とほとんど同質で、ついつい私も緊張してしまいました。
「やっぱり、隠していることがあったのね? よかった、これでしらばっくれられたらどうしようもなかったわ」
「別に隠すことでもねえからな。だが、そう無闇に話すことでもないってだけだ」
守衛さんは視線を外したまま、そう答えます。彼が傍に置いた酒瓶を傾けると、辺りに強い酒精の香りが広がりました。
「前から思っていたけれど、お酒は控えた方がいいんじゃないかしら? 少量なら薬にもなるでしょうけれど、そこまで飲めば毒になるわ」
何を今更、という表情を浮かべつつ、守衛さんは傾けていた酒瓶を元に戻しました。
「俺はな、昔はこの国の大臣だったんだ。前任の財務大臣といえばわかりやすいか?」
「ザルバ大臣の前の、ということですか。しかし……」
「ああ、まだ任期は残っていた。しかも、当時の副大臣はザルバだった。
けどな、俺は奴に負けたんだよ。俺が甘かったんだ」
「何が……あったの?」
初めから感じていた、彼から漂う自罰的な何かが強まったような気がします。おそらく、ここからが話の核心なのでしょう。
「俺が大臣をやっていた頃、裏で慈善活動をやっていたんだ。『リクルーゼ総合人材派遣会社』って聞いたことあるか?」
「ええ。かつて帝国で最も巨大な人材斡旋企業で、数年前に政治家への献金と不当な雇用形態で解体されたって……」
「そこの代表をやっていたのが、俺のガキの時の親友だった。甘ったれで泣き虫で、お節介だが真っ直ぐなやつだった。俺は成績だけは良かったから、そのまま政治家になってあいつは会社を立ち上げた。嬉しそうな顔で言うんだぜ? 『これでメタナリア人を救える!』ってよ」
「じゃあ、彼は……」
「そうだ。ザルバがメタナリア人排斥派の連中を焚きつけ、ありもしない罪状でリクルーゼの会社を潰したんだ」
どうやらこの話、長くなりそうです。私は水を少し口に含むと、椅子に腰掛けます。
さすがは急成長した帝国、その実情はなかなか厄介なのかもしれません。




