とある秘書はメイドを説得します
昨日、ジャービスさんから感想をいただきました! Thank you for impression!
前々話の前書きでお願いしたことをやってくださったようで、本当に感謝しかありません。ありがとうございます!
『うちの読者さんはみなさん聖人説』が現在濃厚ですので、これからも聖人の皆さまを失望させないように頑張っていこうと思ってます。
そんな筆者ですが、どうぞ宜しくお願いします!
エレナが守衛と談笑している頃、ミリダはというと———
「ケーネ、あなたの力を借りたいわ」
すでにあてがわれた部屋に戻り、ケーネと向かい合って話をしていました。表面上は落ち着いているように見えますが、付き合いの長いケーネにはその焦りがありありとわかります。
いつもは綺麗に整えられている髪はほつれ、土埃で汚れたメイド服は大臣の屋敷から逃げてきた時の衣装です。綺麗好きで汚れた服はすぐに着替える彼女にしては珍しいことに、ケーネは嘆息しながら口を開きました。
「俺の力を借りるのは構わない。だが、その前に着替えて少し休んできたらどうだ? 今のお前、ひどい顔をしているぞ」
「……女性に『ひどい顔』だなんて、失礼にもほどがあるわ。けど、大丈夫よ。自分の限界ぐらい、自分がよく知っているもの」
そう言いながら彼女は髪をかきあげます。しかしその動きにはいつもの優雅さなどなく、むしろ苛立った雰囲気が感じられます。
「……こうしている間にも、お嬢様はあのクズに囚われているのよ。いくらお嬢様に考えがあってのことでも、不測の事態というものは存在するわ。そんな時、私がお力になれないなんて死にたくなるわ。
ケーネ、あなたはそうじゃないの?」
「わからなくもないが、俺はエレナに『スティアー卿と会うための用意をしておいて』と命令されたんだ。しかもそのあとに、わざわざ『私が合図をするまで、余計なことをするな』と念を押されたからな。きっとこういう状況をあらかじめ予想していたんだろうよ。
一応俺の部下を大臣の屋敷に忍ばせてあるから、最悪の状況になることはないだろうが」
「そんなことわからないじゃない。しかも今、お嬢様は鉄格子の中にいらっしゃるのよ⁉︎ そんなお嬢様がどうやって私たちに合図なさるというの⁉︎」
「いやお前な……わかった、準備してこよう」
ケーネた深くため息をつきながら椅子から立ち上がり、ミリダの脇を通ってドアに向かいます。
瞬間———
ケーネの腕がしなるように動き、ミリダの首筋を優しく打ちました。適切な角度から、最小限の力で打ち込まれた手刀はミリダの意識をあっさりと刈り取りました。
当然跡も残らず、痛みすら感じさせないその動きは暗殺者のそれですが、彼はれっきとしたエレナの秘書です。
むしろ———
「……普段のお前なら、俺の攻撃なんて鼻歌を歌いながら弾くはずなんだ。それがこのザマってことは相当疲れてんだよ……
ミリダの焦りはわかるし、俺もできることならエレナのもとに飛んでいきたいぐらいだ。だが、今動けばきっとエレナの目論見を壊しちまう。それだけは、秘書の俺もメイドのお前もできねえんだ……」
椅子に崩れたミリダをそっと抱きかかえ、部屋にあったベットにゆっくりと寝かせて毛布をかけます。部屋の主である侍女の一人が入ってきましたが、口に人差し指を当てるジェスチャーでそっと部屋から追い出します。
「エレナから指示のあった時、一番いい動きができるように今は休んだほうがいい。そのお膳立てと準備は、全部俺の方でやっておく。
それにな、きっと俺たちが傷ついたり疲れたりすると、エレナが悲しむんだ。俺もあいつのそんな顔を見たくないし、お前も見たくないだろう?
あーあ、後ですげえ怒られるんだろうな……全く、損な役回りだぜ」
昔から無理ばかりするミリダとエレナを止めるのはケーネの仕事であり、その度に『もっと女の子を大事にしてよね!』や『他の方法はなかったの?』などの理不尽な要求を受けてきたのでした。女心がまるでわかっていないケーネにも問題はありますが、彼女たちもなかなかに理不尽でしょう。
「それもこれも、あのクソ大臣のせいだな……待ってろよ、必ず顔面に一発ぶち込んでやる」
これまでの鬱憤を晴らす絶好の機会を得たケーネは、その拳を静かに震わせました。




