お嬢様は自分の甘さを実感します
やっと大臣の長話から解放された私は、あてがわれた部屋の椅子で大きく背を伸ばしました。
「あの大臣、話長すぎでしょ……よくもまあ、あそこまで要らない話を続けられるわね」
「声が大きい、と注意したいところだけど同感だ……ミリダなんか、後ろで荷物を持ちながら聞いていたからな」
「ほんとっ? ミリダ大丈夫……?」
体感時間で一時間以上立ちっぱなしで、しかもミリダは重い衣装ケースを持ってくれていたはず。成人の男性でも、あの重さのケースを持ちながら一時間も耐えるのは苦痛でしょう。
心配してミリダの方を向くと、彼女は腕を揉んでいるところでした。慌てて私はポーチからお手製の湿布を取り出すと、ミリダの腕にゆっくりと巻いていきます。
「ありがとうございます! 私などは日頃から鍛えておりますが、他の侍女たちは……」
ミリダに言われて、侍女たちがなかなか部屋に戻ってこないことに気がつきました。自分の不注意を叱りつけつつ、ポーチを掴んで彼女たちの部屋に向かいます。
案の定、部屋の中では3人の侍女たちが互いにマッサージしていました。
「みんな、大丈夫……? ごめんね、辛かったでしょう……? 湿布あるから、巻いておけば少しは楽になるかも……」
「お、お嬢様?」
「何をおっしゃいますか! 大丈夫でございます!」
「不甲斐なくて申し訳ありません……」
三者三様に頭を下げる彼女たちに、私も頭を下げます。
そうです、私なんかよりもはるかに疲れている人がいるのです。
「私こそ、配慮が足りなくて申し訳ないわ……これからさっきみたいな状況になったら、迷わずに荷物をおいてくれていいからね?」
私の言葉に、彼女たちは難しい顔をします。確かに一般的には、王族の荷物を侍女が地面に置く、なんてことは許されません。
しかし、私にとって彼女たちの健康の方が大切です。仮に荷物が汚れても洗えばいい話ですし、何なら買い換えればいいのです。お金で買えない彼女たちの健康の方が、ずっと大事なのは道理でしょう。
「これは一人の友人としてお願いするわ。貴方たちだって、友人が辛い思いをするのは嫌でしょう? ほら、腕を出してちょうだい」
「わ、私がお嬢様のご友人ですか⁉︎ あ、気持ちいいです……」
「何と恐れ多いことでしょう⁉︎ あ、ひんやりしていて心地いいですね……」
「……私にも、巻いていただいても?」
ふふふ、私が作った湿布は気持ちいいでしょう? 冷却効果に鎮痛効果もあって、しかもいい匂いのする薬草を使ったから女性でも使いやすいのよ。効能も従来の湿布より当社比3割り増しってところね。
デスクワークが多い身として、市販の湿布では追いつかないし、匂いがキツすぎるから執務中には使えないのがネックだったのよね。
彼女たちに替えの湿布を手渡して部屋に戻ると、ミリダとケーネが険しい表情をしていました。
「どうしたのよ、二人とも。何かあった?」
「お嬢様、こんなものが見つかりました……」
二人が差し出したのは、見慣れぬ黒い電子部品でした。ミリダの手のひらにちんまりと乗るくらいですから、それほど大きいものではありません。
「これは……? 私は見たことないのだけれど……」
「あー、エレナは知らないか……これはな、盗聴器と盗撮器だ。正確には、その可能性があるってだけの話だが」
「つまり、私たちの会話を帝国側は聞いていたってこと? でも……」
そう、普通はこんなところで大切な話なんてしません。聞かれて困る内容は、決して相手のホームグラウンドで話すことはありません。
そんな基本のことを分からない二人ではないでしょうに……そこまで考えた時、やっと二人の言いたいことがわかりました。
「お気づきになりましたか、お嬢様。こんなものが要人の部屋に仕掛けられているということが問題なのです」
「付け加えるなら、俺たちが盗聴器と盗撮器を外したってことは先方にバレてるってのも問題だな。これが録音式ならありがたかったんだが、どうやら無線式らしい。
今日の夜会あたりで、これを仕掛けた奴かその関係者が探りを入れてくるんじゃないか?」
「そうね……気をつけておくわ。それにしても二人は、これが盗聴器だと知ってたの? すごいわね」
「まあ、な。王国にはこんなふざけた真似をする奴はいないが、国外ではそうじゃないんだ。これからはそういうこともあるってことを覚えておいてくれ」
いつになく厳しいケーネの言葉に、私も神妙な顔でうなずきます。おそらく、今までは表に出てこなかったので警戒されていなかっただけなのでしょう。
今日の夜会、相当に気を張らねばならないかもしれません。




