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とある使用人はお嬢様を心配します

そろそろ平成最後の感想をくださってもいいのよ?(チラッ)


すみません調子乗りましたどうかお恵みを……!

「あいつ、本当に使えるのか?」


 スミスさん一家を屋敷の余っている部屋に案内した後、ケーネは私の部屋で愚痴をこぼしていました。


 彼にしては珍しい態度です。これまでミリダやアンネを拾った時には何も言わなかったのに、なぜスミスだけに固執するのでしょう。


「使えるんじゃない? 仮にそこまで使えなかったとしても、私や副会長の命令をこなすぐらいはできるでしょう」


 スミスは共和国でも有名な商会の会頭だったのです。私も商会を始めてみてわかりましたが、この業界で成功するには並外れた才覚か相当な運が必要なのです。


 だから、私は彼の才能に投資をするのです。


 ……久々のことに、少し心が躍っているのも確かですが。


「俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな……あいつが共和国のスパイだって可能性、まだ捨てきれていないんだろ? そんな状態で奴をここに呼び込んで良かったのかって話をしてるんだ」


 ケーネの苛立った言葉に、私はやっと彼が何を言おうとしているのか得心がいきました。


「そうね……確かにその可能性はあるわ。自分でもさっき言った理由が全部当たってるとは思わないし、むしろこじつけな部分が多いわ。

 けれどね、別に裏切られても大丈夫なのよ」


 私の言葉に、ケーネは眉根を寄せます。少し説明が足りなかったでしょうか?


「なんでスミスをここに呼んだと思う? どこか違う場所に家を用意してそこに住んでもらった方が、確かに安全なのかもしれない。

 けれど、それ以上にあなたたちを信用しているのよ。ミリダやアンネ、お父様やお母様、そしてケーネがいる場所なら、何が起きても大丈夫だもの」


 私が考えられる最高の布陣で、しかも相手には娘さんという弱点がある状況。どんなことが起きても、これだけ信用できる人たちがいれば何とかなるでしょう。


 そう、私は元悪役令嬢なのです。何の保険もなく人を信用することなどあるはずもありません。


「そうか……悪かった。考えあってのことなら、俺が口を挟むのは間違ってるな」


「いいのよ。私を心配してくれてのことでしょう? あなたのそういう世話焼きなところ、私は好きよ」


「なっ! いきなり何言ってんだよ!」



 ケーネが珍しく慌てた表情をしています。今更恥ずかしがる間柄でもないでしょうに、最近のこういった態度が私はなぜか嬉しくてたまりません。


 本当に、なんでなのでしょうね?



「じゃ、じゃあ紅茶でも淹れてもらえるかしら? ちょっとだけ仕事をするわ」


「お、おう。すぐに持ってくる」


 ギクシャクした動きで部屋を出て行くケーネを見送った後、私は机に積まれた書類に手を伸ばしました。


 書類を眺めているうちに、熱くなっていた頬が冷えていきます。


 今卓上に積まれている書類は、スミスの一家に関する調査書と共和国の動きに関する資料です。それを読むうち、ある一点で私の手は止まりました。


 これは———


「エレナ、紅茶を持ってきたぞ……ん、何かあったか?」


「ここ、あなたはどう思う?」


 私がケーネに見せた書類は、共和国が極秘で行った軍事演習の内容と、市場の品種別価格変動をまとめた書類。

 本来なら国外秘どころか極秘資料ですが、優秀なケーネが集めてくれたのです。


「おいおい、これって……共和国は戦争を仕掛けるつもりか?」


「そう考えられるわよね。特にここの鉄製品の値上がりと、国内の鍛冶師へ発注激増……それだけじゃなく、木材や皮革、食料品の値段まで高騰している。ここから読み取れるのは———」


「鉄製武具、防具の大量制作。及び攻城兵器や塁を作るのに必要な木材をかき集め、食料品を兵站として集めてるってところか……まずいな」


「ええ、非常にまずいわ……このタイミングで動き出したってことは、おそらく狙いは帝国。最悪の場合、私が王国を離れている時期と被せてくるかもしれないわ」


 本当に最悪のタイミングね。私が国外にいて身動きが取れない時に、帝国を攻め入る。しかもパーティーには私を始め、各国の要人が集まるのだ。


 それこそ一回の戦争で、共和国が大陸全土の覇権を握ることになるかもしれない。


「まだ確証が得られないから、とりあえず密偵を共和国へ送って頂戴。同時にウチの軍備も密かに整えておかなきゃ……今から防衛大臣を呼べる?」


「なんとかしてみる。あのおっさんも、事態が事態だと判れば走ってくるさ」



 突如立ち込めた暗雲。判断を間違えれば国を危機に陥れるかもしれない事態に、私の身は竦んでしまうのでした。



 




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