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再会、あるいは……

「それでは王女殿下、ケーネ殿の元へ参りましょう。部屋の前まではご案内いたしますので、そこからはおひとりで」


「……エレナちゃん、大丈夫……?」



 案内をしてくれるというアリナさんの言葉を遮って、お母様が心配そうな表情を私の方へ向けてきます。


 確かに、今でも怖い。ケーネの姿を見に行くということは、彼が二度と帰ってこないのだと確かめに行くようなものだから。


 でも———


「ええ、大丈夫です。今の私にはお母様やミリダ、大切な人がおりますので。それに彼は、私の中で生きていますから」


「そう……では、行きましょうか。アリナさん、話を遮ってしまってごめんなさいね」


「いえ、大丈夫でございます。ささ、こちらへ」



 卿の言っていた通り、アリナさんはどんどん館の上の階へと上がっていきます。長い、長い回廊式の階段を上った先にある、ひと際豪奢な大扉。その前でアリナさんは立ち止まると、一礼をして去っていきました。


 残ったのはひんやりとした静寂だけ。微かに私とお母様の息遣いのみが聞こえるばかりです。



「……エレナちゃん、本当に大丈夫? 顔色が良くないわ。やっぱり、やめた方が———」


「いえ、大丈夫です。それに私には、彼に言いたいことがたくさんありますから」



 伝えられなかった、色々な言葉。今まで、いや、これからも支えてくれることに対する感謝。彼を死なせてしまったことに対する謝罪。そして、私の想い。


 それらをきちんと伝えなければ、私は前に進むことが出来ませんから。


 重い、重い扉をゆっくりと押して中へ。部屋の内から溢れんばかりの陽光が廊下へ漏れだし、室内が目に飛び込んできて———


「す、すごい……」



 ———まるで、そこは『異界』でした。


 部屋をぐるりと囲む硝子の壁が天井まで続き、色とりどりの植物が見る者を楽しませてくれます。小高い場所に立つ館の最上階に位置するこの部屋は、まさに空中の庭園。神々の住まう、天界の箱庭のようです。


 その中央に位置する、白亜のベッド。そこに瞼を閉じて横たわる姿は———


「ケーネ……やっと、逢えましたね……」


 柔らかな陽の光に照らされたその顔は、今にも私に笑顔を向けてくれそうなぐらいに綺麗で。髪だって、王宮を旅立った時と同じくきちんと整えられていて。


 これじゃ、まるで———



「……最後まで貴方は、私に格好いいところを見せてくれるのね……」



 頬を伝って落ちる、大粒の涙。視界がぼやけて、思わず私はその場に崩れ落ちました。

 


「泣かないって、決めてたのに……なんで、なんでっ……!」


「———まあ、仕方ないだろ。どんだけ背伸びしても、エレナは泣き虫だからな」



 嗚咽と共に漏らした私の声に、誰かが頭上から声を返します。


 聞き慣れた、聞きたかったその声に私は固まってしまいました。


 ……まさか、まさかっ———




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