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お嬢様は共和国の商人を拾いました

そろそろ感想とかいただきたいなあって。


え、贅沢ですか? すみません次話の執筆に戻ります……

 さて、私の後ろには粗末な服を着た男が歩いています。彼の服も体も薄汚れていて、明らかに生活に困窮していることがわかります。


「王女殿下……どちらに向かわれるので?」


「エレナでいいわ。とりあえず私の別荘に向かおうかなって」


 これでも一国の王女。自分の別荘ぐらい持っているのです。


 ……まあ、現状一つしかなく、場所も王室の別邸の隣なのですが。


「恐れながら、私の家族を一緒に連れて行ってはいただけないでしょうか?」


「あら、ここから近いの?」


「はい。そこの通りを右に曲がってすぐでございます」


「そう……じゃあケーネ、近くまで馬車を回してちょうだい?」


「わかった。すでに医者の手配は済んでるから、あとはそいつらを連れてくるだけで完了だ」


 さすがはケーネ。姿は見えないけれど、常に私を守れる位置に隠れているのでしょう。


 ケーネは言動こそアレですが、能力自体はとても高い男の子なのです。


 私はケーネの返答に満足すると、後ろを歩く男に振り返ります。


「さて、聞いての通り手は回してあるわ。体調を崩してる娘さんだけでも早く屋敷に連れて行きたいのだけれど、呼んできてもらえないかしら?」


 私の言葉に、男がさっき言った方向とは真逆の方向へ歩いていきます。彼の表情から、まだまだ彼が本心から私を信用していないことはわかっていました。だからこそ、あえてケーネとのやり取りを男に聞かせることで、彼の信用を買ったのです。

 

 まあ、男がなまじ頭の回る人物だから通用した手段ではありますが……


 身も蓋もない話をするなら、彼が『頭の回らない』人物ならわざわざこうやって話しかけていません。





「さあ、早く乗って」


 暗い裏路地を抜けた先には、少し小ぶりな馬車が停まっていた。一瞬『これが王族の馬車か?』と不審に思うが、同時に大きい馬車でくれば騒ぎになるかと納得。


 不安げな表情を浮かべる妻と娘を見て、改めて自分が気を許さないように気をつけようと心に誓う。


 俺は腹の底にグッと力を入れると、意を決して馬車に乗り込んだ。



 大通りをまっすぐ、貴族の居住地域へ。窓の外から見える豪奢な建物に得も言われぬ嫉妬を覚えていると、そのまま区画を抜けて王宮へ馬車は向かい始めた。



「あの、今から王女殿下の別邸に向かわれるのでは? なぜ王宮へ?」


「ああ、あなたは知らないのね。私やお父様の別邸は王宮の裏にあるの。いいから安心して乗ってなさい」



 彼女の言葉通り、王宮の脇をすり抜けると馬車はそのまま屋敷の中へ入って行った。


「お嬢様、お帰りなさいませ。その者が例の男ですか?」


「ええ。まずは娘さんを医者に見せてあげて。それから彼と奥さんを湯浴みに案内してちょうだい」


 かしこまりました、と恭しく頭を下げる女性のエプロン。その胸に王家の紋章———百合にレイピアの刺繍が施されているのを見て、やっとここが王家の屋敷なのだと信用する。

 この国では王家の紋章を騙ることは重罪。そんなことを侍女がするとは思えないからだ。


「ご配慮、痛み入ります。王女殿下」


「……その口調、別に無理して敬語を使おうとしなくてもいいわよ? 私はあなたに『王族』として接するのではなく、『商人』として接するつもりだから」


 何を言っているのだろう。貴族に、ましてや王族に敬語を使わないなんて首がいくつあっても足りない行為だ。何かの罠かと訝しむが、彼女の表情からは騙そうという意志は見られない。

 まあ、後ろの従者らしき男はさりげなく睨んでいるが。


「ケーネ、別に私がいいのだから問題ないでしょう? それにあなた、口調には身に覚えがあるのでは?」


「……あんたがそこまで言うなら俺は何も言わない。よかったな、商人」


 従者らしき男のぞんざいな口調に、王女がクスクスと笑いを漏らす。その不思議なやり取りに、俺はなぜか羨望を覚えたのだった。




 

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