再起。あるいは本当の始まり
……気が付くと私は、見慣れた天井を見上げていました。蒼の天幕に白の刺繍———私の寝室です。
枕元に人の気配を感じ、腫れぼったい瞼をこじ開けながら飛び起きます。隣にいたのは、ミリダでした。
「お嬢様! お目覚めになったのですね!」
「ええ。……どのぐらい、こうしていたのかしら?」
「半日ほどです。医師からは『精神的なものだ』と聞いていましたが、とても心配したのですよ……!」
窓の外に目を向けると、すっかり夜のとばりが降りていました。ここから星空が見えるようにと、ベッドを移したのはケーネです。
こうしてミリダが心配してくれる時には、一緒になって心配してくれたのもケーネでした。
「ミリダ、心配をかけてごめんなさい。少し、私の話を聞いてくれるかしら……?」
「……はい、喜んで」
私の言葉に、ミリダがそっと隣に腰を掛けた。
「私ね、ケーネのことが好きだったの。ううん、愛していたんだと思うわ」
「ええ、そうでしょうね。お嬢様とケーネの間には、特別なものがありましたから」
「でも、それに気付いたのは彼を喪ってからよ。どう、馬鹿な話でしょう?」
本当に、愚かだったと今なら分かります。
なぜ一言、自分の想いを告げられなかったのでしょう。もっと、たくさん言わなきゃいけないことがあったのに……
今さら気づいたって、もう遅いのに。
「特に最近の彼には、いつもどぎまぎさせられたもの。彼が隣にいるだけで心臓が痛くて、一緒に作業するだけでどんなことでも出来る気がしたわ」
「……今は、違うのですか?」
ミリダらしくない、弱々しい声音。私がここで折れてしまったら……そんな心配が伝わってきます。
でも———
「そうね……今も、だったわね。ケーネを愛していたのと同じぐらい、私にとってはミリダやリダ、この国の人が大切な存在だもの。ミリダたちが頑張ってくれるなら、私だって頑張れるわ」
「……お嬢様は、強くなられましたね」
噛み締めるように、どこか眩しげにそう言うミリダに私は首を傾げます。
「失礼ながら、以前までのお嬢様ならもっと落ち込んでおられたと思うのです。それこそ、こうして穏やかに心中を語ってくださることもないままに。
ケーネが、変えたのでしょうね」
なるほど、ね。彼女の言葉に、私は思わず苦笑を返します。
「そうね。ケーネが、私を変えたのかもしれないわ。
———だって、私は彼に恋をしていたのだから」
でも、だからこそ私は立ち止まれない。私の大切だった、いえ、今でも大切なケーネに恥じない私であるために。
後悔もある。哀しみもある。喪失感もある。
でも、それを抱えて前に進まないと『私の中のケーネ』が許してくれない。私を、好きにはなってくれないから。
「……こんな時、ケーネなら『早く起きろよ。なにめそめそしてんだ』って私の手を引くのでしょうね。
ミリダ、支度をして頂戴。仕事に、戻るわ」
「……本当に、強くなられましたね。そのお姿、今までで一番美しいと思います……!」
もう、私は立ち止まらない。
私が愛する、彼が私を支えてくれるから。
まだ完結しないですよ!(一応)