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天才王女はお母様から怒られてしまいました

「おはよう、エレナちゃん。あら、こんな時間からお仕事?」


 朝の書類整理をしていると、お母様が執務室にいらっしゃいました。お母様がここに来るのは相当に珍しいことだったので、思わず手を止めてしまいました。


「お、おはようございます。朝食にはまだ時間があったと思いますが……」


「うふふ、もう時間よ。けれど気にしないでいいわ。たまにはあなたの仕事ぶりを見たいし」


「ありがとうございます。なるべく早く終わらせますので」


 私の言葉が終わると同時に、ケーネがお母様の前に紅茶を差し出します。ケーネの淹れる紅茶は舌の肥えたお母様にも好評なほど美味しいのです。


 さて、早く仕事を終わらせなきゃですね。


「ミリダ、この予算案はもう一回経理課に突き返してちょうだい。ここの必要経費のところ、もう少し削れるはずだから再度見直しを。

 今までよりは確かに国庫も潤いつつはあるけれど、それをアテにしたような予算は到底呑めないわ」


「一応、経理課の方からは『材料費の高騰』という理由を聞かされていますが……」


「ならその上がり幅と今回の予算の上がり幅を比較した書類を回してちょうだい。確かに建材の高騰は把握しているけれど、これほど必要経費がかかる理由にはならないわ。私の試算だと、あと1割は削れるはず」


「承知いたしました。この書類はいかがいたしましょう?」


「ああ、それは王都の戸籍謄本の作成方法をまとめたものよ。それを各領に派遣する住民課の人たちに渡しておいて。彼らが去ったあとでも、効率よく戸籍管理をしてほしいから」


 これで朝の仕事の半分は片付いたはず。残りは書類を確認してハンコを押すだけの簡単なお仕事と、近々帝国へ行く際に仕事を割り振る人材のリストアップだけ。


 そんなことを考えながら書類に目を通していると、唐突に部屋のドアが叩かれました。


「ん? どうぞ」


「朝早くに失礼いたします」


 入ってきたのはシャルロット商会の副会長でした。ちなみに彼は、会長である私があまりにオーバーワークすぎるために引き抜いた元有力貴族の会計係です。


「商会の会計報告書と、新商品に関する技術者からの意見をまとめたものをお持ちしました。しかし……」


 机に積まれた書類の山を見て、副会長が言い淀みます。座った私の顔まである高さが一山と半分。これを今から片付けるのかと考えるとゾッとしませんが、ここは仕方ありません。


「いいわ、置いてちょうだい」


 ……さすがは副会長ね。会計報告書の方は完璧ね。もはや文句のつけようがないどころか、教材として高等科の教科書に載せたいぐらいだわ。

 新商品の方は……お、こちらも好反応。貴族のご令嬢やご婦人向けに化粧品を考えたのだけど、どうやら商業ベースでも再現可能のようね。効果は私が使ってた物だから、すでに実証済みと言ってもいいはず。


「ありがとう、完璧だわ。付け加えるとしたら化粧品の方は、後でパッケージのサンプルを持って開発部の方へ行くわ。昨日の晩にいいデザイン案を思いついたのよ」


「了解いたしました。ちなみに何時にいらっしゃいますか?」


「そうね……昼の1時過ぎには行けると思うわ」


「では、そのように調整しておきます」


 よろしくね、と言ってから書類の山に手を伸ばします。これが片付くのは昼前になるでしょうか……


 脳内でスケジュールを修正していると、横からにゅっと手が伸びてきました。驚いて手の主を見ると、そこには微笑んだお母様がいらっしゃいました。


「お、お母様……ご迷惑をお掛けして申し訳ありません……すぐにキリのいいところまで終わらせますので、少しお待ちいただければ……」


「いいのよ。二人でやれば早く終わるでしょう?」


 そう言いながら手早く書類に目を通していくお母様。手元のメモに何やら書き込んでおられるところを見るに、私のために内容をまとめてくださっているようです。さすがはお母様です。

 

 しばらくペンがサラサラ動く音と紙のめくる音が続いた後、お母様が口を開きました。


「私、エレナちゃんに少し怒っているのよ? 今のあなたはあまりに忙しすぎるわ。確かにエレナちゃんには類い稀な才能があると思うし、人に任せるよりは自分でやったほうが速いっていうのもわかるわ。

 けれどね、あなたの今のやり方じゃ身体を壊すだけよ。もっと周りの人を頼りなさい」


「すみません……ですが、私の抱える仕事はどれも権限が必要で……」


「あら、権限を持ってて有能な人間なら身近にいるじゃない」


 そう笑いながら、手元の書類に何やら書き込んでいくお母様。書き終わったそれを私に手渡しながら、お母様は久々の険しい表情でこうおっしゃいました。


「あなたが忙しい時には、私とお父様で仕事を分担するわ。ちょっとは休むことを覚えなさい」


 このとき見たお母様の表情を、私は一生忘れないでしょう。





筆者、以前『アンネちゃん可愛い』とか言ってたと思うんですが、実はお母様も好きだったりします。


お母様に優しくされたいと思いません⁉︎ 思いませんかそうですか……

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