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天才王女は大商人を説得するようです

アンネちゃん可愛くないですか?


筆者はアンネちゃんを愛でたいんですけど()

 先ほどまで部屋に漂っていた、どこかアットホームな雰囲気はすでに消え去っています。代わりに場を支配するのは、しんと張り詰めた空気。思わず私も身が引き締まります。


「それは、ナンコーク王国第一王女として、シャルル商会の会長に要請しているのかな?」


 普通なら、不敬罪として咎められてもおかしくないような、横柄な口調です。しかし、彼女の持つオーラは、その態度すらも納得させてしまう何かを持っているのです。

 

 きっと、私が相手でも『商売』が絡めば全く容赦はしてくれないでしょう。この切り替えの早さは、私が街で拾ってきた時と全く変わりません。それに加えて、一を聞いて十以上を理解する能力。初めて会った時には文字すらも読めなかった少女が、きちんと教育を受けてから僅か1ヵ月で読み書きをマスターしたのですから驚きです。


 少なくとも、つい先日会談したスローダよりは『才能』がはるかに上なのです。


「そうよ。一国の為政者として、影響力を持つあなたに頼んでいるの。もちろん、こちらから頼んでいるのだから、それなりの見返りはするわ」


「見返り、ね。けれどさっき、王国にはお金がないという結論に至ったじゃない。これ以上出費を増やせば、この国は崩壊するよ?」


 そう、普通に考えればその通り。どこをひっくり返しても、シャルル商会に渡すお金なんて残ってない。


 しかし、何も見返りは『お金』には限らないのです。


「ええ。だから、貴方に渡す見返りは金銭じゃないわ。私が渡せる見返り———それは人間よ。

 学校できちんと経済や経理を学んだ人間を、自分の商社が引き抜ける。なにせ、出資者なのだから当然学園の中での立場は『理事長』よね? 自分たちが学べる場を提供してくれた商社に、恩を返したいと思う人物も少なからずいるんじゃないかしら」


 私の言葉に、ひたと私の目を見ながら考えるアンネ。今、彼女の脳内では損益が目まぐるしく計算されているのでしょう。

 その硝子のように無感情な瞳にたじろぎつつも、私は話を続けます。


「次に、これから変わる税制にいち早く対応できるというメリットもあるわね。

 これから王国は、一律回収していた人頭税から累進課税型の所得税と住民税に切り替えるわ。詳しいことはさすがに言えないのだけれど、今までの節税テクニックなどは一切通用しないと思ってちょうだい。

 そんな時に、新たな経理に明るい人材がいれば資産の圧縮や節税も容易いはず。そこで得る恩恵を、まさかあなたが理解していないなんてことはないわよね?」


「……なるほどね。確かにリターンはあるわね」


「それだけじゃないわ。学校は何も経理や経済を学ぶだけの場所ではないもの。法律や外交、農業や建築、果ては哲学まで様々なことを学べる場所よ。それだけ多様な人材を育成する場所に、自分たちの息のかかった人間ができる……この意味、分かってくれるかな?」


「もちろん。私たちシャルル商会は、金の卵を産む鳥を殺して食肉にするような商売はしないもの。一国を動かす為政者から、うちの商会に提示された条件は十分すぎるほどの利益がある。

 この話、シャルル商会会長のアンネが受けるわ。具体的な話はいつ頃決まるのかしら?」


「すでに見積書も運営計画も出来上がってるから、この話し合いが終わればすぐにでもお渡しするわ。王国一の商人をこちらの事情で無駄に引き留めたとあっては、それこそ王国の損失だわ」


 私の言葉にアンネが吹き出し、張り詰めていた空気が氷解します。


「そこまで言われちゃ、私も全力で学園運営をサポートしなきゃですね」


「そうよ。そもそも、設立だってあなたにかかっていると言っても過言じゃないんだから」


 こうして、私はアンネの協力を取り付けたのでした。


 



 これが後に有名になる『シャルル基金』の始まりだとは、この時はまだ誰も予想していませんでした。

 



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