天才王女は判決を下します
「はてさて、皆様がここへいらしたのはどのような要件があってのことか、今一度お聞かせ願えますか?」
私の言葉に、二人の村長が同時に肩を震わせます。そのオロオロとした姿に、大の大人が何をみっともない、とも思いますが彼らの立場では仕方のないことでしょう。
寸刻の後、ゆっくりと言葉を選びながらトレイス村の村長が口を開きました。
「そのう……我々が金鉱の権利を殿下から横取りしようと画策し、あまつさえ武力衝突が起きそうになったのでその和平に……」
「そ、そうであります! 結果として王女殿下にご迷惑をかけたことに関しましては、謝罪のしようもございませんが……」
トレイス村の村長に続いて、リクル村の村長が椅子から立ち上がって跪きながら言葉を継ぎます。
「まあ、そんな恐ろしいことを……つまり貴方たちは、王族の私から鉱山の権利を掠め取るだけには飽き足らず、国内で許可なく武器を振りかざそうとしたのですか?
トレイス村の村長よ、どのような刑がふさわしいとお思いで?」
「ひっ! 処罰はいかようにも……すべては王女殿下と国王陛下の御心のままに……」
「なるほど。では、リクル村の村長はどうやって事態を終息させるつもり? まさか自分たちが始めた諍いを、自分たちで片づけられないなんて寝言を言うつもりではないでしょう?」
「は、はいぃ! 代表者の打ち首、村落の解体に国外追放でしょうか……私の命でお納めいただければ、これ以上ない幸せにございます」
跪く彼らの全身はついに震え、護衛と思しき男たちも視線を落として私の言葉を粛々と受け入れる様子。
ゆっくりと息を吸うと、私は努めて声を張りながら裁決の内容を口にします。
「あいよく分かりましたわ。では、この場で貴方たちを断罪して差し上げましょう。
両方の村へ同じく、金鉱での労働を命じます。それ以外の職に就きたいものは、逐一私の元へ嘆願書を寄こすこと。
そして代表者の貴方たち。二人には両村の共同管理を命じます。今度こそ上手くまとめ上げるのよ? 次は、ないと思いなさい」
「———は。……え?」
「あら、私の裁に不満があると言うの?」
「い、いえ、そんなことは! しかしそれでは、御咎めなしと変わらないのでは……と僭越ながら思った次第でして……」
リクル村の身長が、恐る恐ると言った様子で私に問いかけます。彼の驚きは尤もで、反乱を起こそうとした集団の代表者は処刑されるのが常だからです。
現に、私の後方でメモを取っていたロレンス王国の文官たちにはざわめきが広がっています。彼らの文化でも、反乱分子を許すということは異常なのでしょう。
しかし、今回に限ってはこれでいいのです。
「そもそもの話、貴方たちは武器を持ちだしただけで戦闘を行っていないわよね? なら、自衛だの何だのと言い訳はいくらでも立つじゃない。
次に私から金鉱の権利を横取りしようとした件だけど、それは私が両村から鉱夫を募集しなかったからでしょう? それについて反省するつもりは更々ないけれど、その結果として不満が出たことを咎める気はないわ。
強いて言うなら、忙しい私をここまで呼び出したことぐらい。だから金鉱での労働を命じたのよ。これでも何か不満?」
「そ、そんなことはございません! ご高配、痛み入ります!」
「村の連中に、伝えてきてもよいでしょうか⁉」
「いいわよ。鉱山への労働従事に関しては追って詳細を通達するから、それまでに村の全員の合意を取っておきなさい。さあ、村長の二人はここからが大変よ!」
私の言葉に揃って一礼すると、脱兎のごとく去っていく村長と護衛達。私の裁決に嬉しさもあるけれど、今は早くプレッシャーから解放されたい気持ちの方が強いといった所かしら。初対面の王族相手に礼を欠かないようにするだけでも、彼らにとっては相当な重圧だったはずです。
丘の上を吹き抜ける風にしばし髪をなぶらせた後、私は王宮へ戻るべく騎馬へと戻るのでした。